第91話 墜落戦線
魔力の炎で加速する無数の砲弾が接近する。
今度は数十ほどある。
ほとんど同じ瞬間に炸裂しそうだ。
こちらが防御不可能な形を狙ったのだろう。
なかなか意地の悪い攻撃である。
「ふうむ、悪くないですね」
私は顎を撫でつつ微笑み、迫る砲弾群に合わせて剣を振るう。
斬撃はすべての砲弾を破片になるまで刻んだ。
その破片が吹雪のような勢いで飛行船に浴びせられる。
私は咄嗟に防御するも、飛行船のあちこちに破片が刺さっていた。
黒煙が昇る箇所や、駆動音が怪しい装置があった。
まだ飛べるが、無傷とは言い難い。
「いやはや、お恥ずかしい。完全無欠の剣術とは程遠いようで」
私は苦笑する。
その間に機体の破損部分を霧の身体が覆った。
魔力の循環を組み替えたのか、故障と思しき挙動は止まる。
「ナイアさん、ありがとうございます」
『構わぬ。だが壊れすぎると吾でも支え切れぬぞ……』
「魔導国の首都まで持てばいいです。この速度なら大した時間はかからないでしょう」
連続で砲弾が飛んできたので、私は次々と迎撃していく。
切り裂いた砲弾が飛行船を掠めて地上に落下した。
途中、ナイアのぼやきが聞こえてくる。
『光の速度に匹敵する砲撃なんて、普通は斬れぬのじゃがなぁ』
「気合でなんとかなるものです。ナイアさんも気合を入れてください。派手な術が飛んできますよ」
それからも攻防戦は続く。
次第に飛行船の破損が増えてきた。
やはり私の剣術では完全には守れないのだ。
飛行船はナイアの霧の身体の面積が増えていく一方だった。
『崩剣の力でなんとかできぬかっ!?』
「無理ですね。仮に魔術的な推進力を消せても、慣性は残るので直撃します」
崩剣の力を解放しすぎると、今度は飛行船の機能に支障が出る恐れがあった。
最悪、自滅して墜落する。
それはさすがに避けたいところだ。
私の斬撃で砲撃施設を粉砕するのが最も現実的だろう。
その時、今までの三倍ほどの量の砲弾が迫ってきた。
駄目押しの攻撃だ。
ここで一気に攻め潰すつもりらしい。
私は機内の様子を探って首を振る。
「操縦席も頑張っていますが間に合いません。斬るしかないですね」
直後に飛行船の右の翼を切断した。
弾みで機体は回転しながら墜落し始める。
その中で砲撃を斬って斬って斬りまくった。
破損は増えたものの、攻撃規模に比べれば微々たるものだろう。
『リゼン! 一体何をしておるのじゃ!』
「だから斬ると言ったでしょう。緊急回避です。今のうちに翼を修復してください」
『なんでも吾に無茶ぶりしおって……』
文句を垂れるナイアだが、既に霧の身体で翼の代用をしていた。
機体の回転が緩和して角度が安定していく。