第90話 上空制戦
目を凝らして金属塊の正体を探る。
それは魔術で加速し続ける巨大な砲弾だった。
私は操縦席で剣を抜き放って魔力の斬撃を飛ばす。
風防のガラスごと迫る砲弾を切断した。
割れた砲弾は、軌道がずれて飛行船を掠めるように後方に流れていく。
「おや」
斬ったガラスに亀裂が走っている。
このままだと砕け散りそうなので、助手席に指示を飛ばした。
「ナイアさん、塞いでください」
『む、無茶を言うなっ』
文句を言いながらも、ナイアの霧の身体が変形した。
スライムのように伸びて、ガラスの傷を覆い尽くして固定する。
化身であるナイアの身体は物理的な攻撃では破壊できない。
自在に形を変えられる点を応用すると、こういった使い方もできるようだ。
どこかで盾にできないかと考えていたのだが、その発想は正解だったらしい。
この特性をナイアが言っていなかったのは、こき使われる可能性に思い至っていたからだろう。
私は破損の悪化が起きないのを認めると、操縦席に勇者を座らせた。
その一方で飛行船の出入り口の扉に手をかける。
「このまま飛行を続けます。必要に応じて操縦桿を動かしてください」
「おい、どうする気だ」
「飛行船の上にしがみ付いて砲弾を阻止します。内部から攻撃すると機体を傷めつけてしまいますからね。生憎と守ることに関しては不得手なのです」
仮にこの環境で私が守りに徹したとしても、無傷で運ぶのは不可能だろう。
外にいても無傷は難しいと思われる。
死なない自信はあるものの、それ以外については断言できない。
監獄で元騎士団長ウィリアムに指摘された通り、得意分野でないと本領を発揮できないのである。
続いて私はナイアに頼む。
「機体が破損したら誤魔化してください。時間稼ぎでも構いません。勇者パーティーの皆さんに協力してもらってもいいでしょうね」
『ぬ、おおぉ……分かった、分かったぞリゼン。だから後でまた吾を、使ってほしいの、じゃ……』
「承知しました。一太刀分だけ約束します」
崩剣の使用は発進時だけにしたかったのだが、こればかりは仕方あるまい。
ナイアの補助があれば、飛行船が墜落する危険も少なくなるだろう。
既に勇者パーティーのうち魔術を使える者達は、防御魔術や結界を展開し始めていた。
魔術兵器を相手にどこまで効果があるか不明だが、何もしないよりは頑丈になったはずだ。
私は扉を一瞬だけ開けて外に出ると、側面に剣を突き立てながら上部までよじ登る。
先端付近まで移動したところで、姿勢を低くして迎撃を待ち構える。
「さて、どれだけ楽しませてくれますかね……」
呟くうちに、進路の先でいくつもの魔術の光が瞬いた。
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