第89話 勇者パーティーの過ち
私と勇者パーティーは飛行船で移動していく。
厚い雲の上を高速で突き進む。
操縦席に座る私は、ガラスの向こうに見える景色に感心の声を洩らした。
「優雅な空の旅ですねぇ。素晴らしいとは思いませんか」
後ろに座る面々の反応は薄い。
そもそも高所に怯えている者や、極度の疲労で眠る者もいた。
監獄での生活が堪えたのだろう。
まあ、移動中に起きている必要もない。
そう思っていたのだが、気が付くと勇者パーティー全員が私を見つめていた。
真剣な雰囲気を察しつつ、私は平常通りの口調で尋ねる。
「どうしたのですか皆さん。顔が暗いですよ」
「国家規模の一大事なんだぞ。余裕ぶっていられるか」
代表した勇者が答えた。
私は微笑を隠さずに述べる。
「そんなことですか。ご安心ください。魔導国がどれほど強大な切り札を残していようと、私が一太刀で斬り伏せましょう」
「大した自信だな」
「自信ではなく事実です」
私が断言すると、場に沈黙が訪れた。
隣に座るナイアも神妙そうに口を閉ざしている。
本当にどうしたのだろうか。
怪訝に思っていると、勇者が口を開く。
「――あの時」
「何ですか」
「あんたを追放したことだ。本当に、すまなかった。俺達が間違っていたんだ」
「私が不在となって苦労したでしょうからね」
「それだけじゃない。俺達は、英雄の立場と力に驕っていた。何度も思い知らされた。世界は甘くない。仲間も何度か失った」
勇者は告白する。
彼の声音には悲痛や怒りが込められていた。
後者は私ではなく、無力な己に向けられているのだろう。
歯を食い縛る勇者は断言する。
「俺達は半年で学んだ。剣聖リゼン、あんたこそ真の英雄だ」
「それは過大評価ですよ。前にも言いましたが、私は守銭奴の傭兵です。英雄ではありません。勇者パーティーに死者が出たのも言われて気付いたくらいです」
私は淡々と話す。
勇者はもう何も言わない。
感情の読めない顔でこちらを見つめ続けていた。
他のメンバーも同じような状態だった。
ナイアと目配せをした後、私は嘆息を押し殺して述べる。
「まあ、過ちを認めて謝罪できるのは良いことです。私は気にしていないので、皆さんも前を向いてください」
視線を操縦席に戻す。
前方から金属の塊が飛来しつつあった。
火炎を噴き散らして高速で接近している。
「魔導国からの招待状ですね。しっかり受け取りましょうか」
私は鞘の剣に手を伸ばした。