第87話 迎撃の刃
間もなく飛行船の発進準備が完了した。
左右の翼に魔力が充填されて安定していく。
これでいつでも飛べるらしい。
魔力消費が甚大とは言え、手軽に多人数を空路で運べる飛行船は素晴らしい発明だろう。
私は看守長に指示をする。
「では監獄の皆さんは待機をお願いします。解決したらまた訪れますね」
「了解した。気を付けてな」
「ええ、ありがとうございます」
その時、外から不審な魔力を感じた。
まだ距離はあるが、多方面から接近しつつある。
外に出ると彼方に複数の飛行船が見えた。
感じる魔力反応は数千にも及ぶ。
もっと範囲を広げれば、総数は膨れ上がっていくことだろう。
穏やかな雰囲気ではない。
私が顎を撫でつつ疑問を口にする。
「ふむ、誰でしょう」
「大陸内の他の施設を任された主戦派の者達だ。我々の裏切りに気付いたらしい。ここで食い止める気だ。攻め込んでくるぞ」
「おやおや、それはいけませんね。急いでいることですし、さっさと迎撃しましょうか」
私は腰に吊るした剣に手を伸ばそうとして、止める。
続いて飛行船から降りてきたナイアに注目した。
彼女は不思議そうに首を傾げている。
(別に正攻法でやってもいいですが……)
いくつかの可能性を考える。
現在の状況を照らし合わせて、最も良い方法を模索した。
その末、私はナイアに依頼をする。
「ナイアさん。少し手伝ってくれますか」
『リゼン……まさか吾を使う気になったのか!?』
「ええ、そうです。主義には反しますが、ここは効率重視でいきましょう。完璧な仕事ぶりには必要なことです」
『分かった! 全力で振るうがよいッ!』
ナイアが跳ねて大喜びする。
出番が来たことがよほど嬉しいらしい。
意思を持つ剣にとって、使用されることは名誉なことなのかもしれない。
靄に似たナイアの化身が薄れて消えて崩剣に吸い込まれた。
私は柄を握って大上段に掲げた。
迫る飛行船は続々と攻撃態勢を整えている。
高出力の魔力は、光線兵器を使う前兆だろう。
『ありったけの魔力を流すのじゃ!』
ナイアの声に従って崩剣に魔力を伝える。
力が浸透するごとに刃の輝きが増していった。
微かな振動も感じる。
流した魔力が破壊力に変換されているのだ。
私はひたすら力を蓄積させる作業に集中する。
まだ攻撃は飛んでこない。
射程外であるのはなんとなく分かった。
だから限界で力を高めていく。