第86話 旅立つとき
その後、私達は監獄の外に移動する。
入口の前には翼の付いた大きな鉄の箱があった。
看守長によると飛行船と呼ばれる乗り物だという。
魔力を燃料にして高速飛行が可能なのだそうだ。
主に物資の運搬が目的で、この型は速度重視の軍用機らしい。
現在は人形ではなく生身の看守長が、操縦席の説明を終えて述べる。
「魔導国の首都まで半日で着く。ここの施設にある乗り物の中では最速だ」
「十分です。これなら間に合いそうですね」
私だけなら海を走って向かってもいいが、勇者パーティーが同行する。
他の移動手段を考えていたところだったので、看守長が飛行船を用意してくれて良かった。
私は操縦席から後ろを振り返る。
緊張した面持ちの勇者パーティーは、固唾を呑んでこちらを見ていた。
「皆さん、準備はよろしいですか」
「ああ。いつでも行ける」
『吾も大丈夫じゃ! シアレスの阿呆を救出してやろうぞ』
勇者に続けて、ナイアも元気に返事をした。
それを見て微笑した私は、看守長に礼を言う。
「ご協力ありがとうございます。すべて片付くまで待機していてください。魔導国はすぐに滅亡させますので」
「……罪なき民も皆殺しにするのか?」
「いえいえ、国の根幹となる上層部を始末するだけですよ。特に戦争を推し進める一派ですね。できれば穏健派は残したいので、何か指標があると嬉しいのですが」
「あるぞ。この資料だ」
懐を探った看守長が紙の束を手渡してきた。
中には魔導国の主戦派と穏健派を色分けした資料が記されていた。
人相書きもあるので非常に分かりやすい。
とても即席で仕上げたとは思えない完成度である。
私は中身を読み進めながら感心する。
「やけに準備がいいですね。もしや反乱を企てていたのですか」
「ここ数年の魔導国は腐敗し切っている。戦争で世界の支配者となるなど、とても賛同できる方針ではない。だからいつか反旗を翻すつもりだった。そのための戦力が監獄内の職員だ」
「なるほど。なんだか割り込んでしまったようで申し訳ありませんね」
「構うものか。むしろ願ってもない幸運だ。これで確実に現体制は崩壊する」
看守長は即答する。
その目には強靭な意志が宿っていた。
監獄を訪れた時、やけにあっさり降伏したと思っていたが、彼女にも目的があったのだ。
私を利用して主戦派を一掃できると考えていたらしい。
その企みは見事に成功するだろう。
なかなかに狡猾だが、別に悪い気はしない。
互いの目的は一致しているようなものなのだ。
ここは協力関係になるべきだろう。