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一太刀につき金貨一枚 ~守銭奴の剣聖は勇者パーティーを追放されたので気ままに生きることにした~  作者: 結城 からく


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第82話 究極の過程

 私は親愛の情を込めて、ウィリアムに語り聞かせる。


「あなたは完成された剣士です。しかし、私は未だ未完成で、今この瞬間も成長し続けています。明暗を分けたのはこの一点でしょうね」


「は、ははは……まだ強くなって、いるのか」


「もちろんですとも。我ながら向上心が旺盛でして、己の限界を定めたくないのですよ」


 私は誇らしさを隠さずに頷く。

 己の限界など存在しないと思っていた。

 その気になればどこまでも強くなることができる。


 思い込みや諦めが限界を生み出す。

 だから私はそういった考えを排していた。

 愚直なまでに自身の可能性を妄信している。

 そこに才能と努力が組み合わせることで、剣聖リゼンという人間が出来上がっていた。


「元騎士団長ウィリアム。あなたに究極の過程を見せましょう」


「――大人しく、受けると思うかい?」


 ウィリアムが不気味に笑う。

 次の瞬間には彼の姿が霞み、殺気が斜め後ろから接近してくる。

 転移を用いた強襲だ。

 しかし、これまでの中でも段違いに速い。

 空間を穿つ必殺の刃は、背中に触れようとしていた。


(さすがです。限界を超えましたね)


 胸中で称賛する私は、彼の数倍の速度で身を翻した。

 そこから刺突を頭上に受け流しつつ、ウィリアムの懐に潜り込む。

 ウィリアムは呆気に取られた顔で硬直した。


「あっ」


「骨の髄まで堪能してください」


 私は魔力を込めた斬撃を放つ。

 複雑な空間操作を要するウィリアムと違って至極単純な攻撃だった。

 それが監獄の分厚い壁を次々と切り裂きながら突き進み、衝撃だけで各部屋を粉砕しながら彼方に消えた。

 追加で無関係な囚人を巻き込んだと思うが、別に私の知ったことではない。

 今回の依頼には無関係なのだから、特に気にする事項ではなかった。


 ウィリアムの姿はない。

 床に残る血液だけが彼の存在した証だった。

 咄嗟に空間魔術で逃れようとしたが、間に合わなかったのは目視した。

 元騎士団長であり、国に報復を誓う元騎士団長ウィリアムは、悲願を叶えることなくあえなく戦死したのだった。


 剣を鞘に戻したところで、頭上から声が降ってくる。

 別の階でナイアがこちらを見下ろしていた。


『終わったのか?』


「ええ、完勝です。予想外の強さではありましたけどね」


『……相手が悪かったとしか言えぬな。その男に同情してしまうのじゃよ』


 ナイアが呟くように言う。

 彼女の主張もよく分かる。


 強すぎる力とは、あまりにも不条理なのだ。

 私はウィリアムを台無しにした。

 それを自覚しつつも、今後も控える気はなかった。

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