表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一太刀につき金貨一枚 ~守銭奴の剣聖は勇者パーティーを追放されたので気ままに生きることにした~  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/122

第81話 底の見えない力

 ウィリアムが不意に突貫してきた。

 空間魔術を纏わせた刃が振り抜かれようとしている。

 私は剣で弾いて斬撃を打ち上げると、ウィリアムの脇腹に掌底を打った。


 炸裂音と共にウィリアムが床を転がる。

 彼が跳ね起きる前に転移したので、私の背後に現れた瞬間に刺突を繰り出した。

 何気なく伸ばした切っ先は腹に刺さっている。


「ぐっ」


 苦痛に顔を歪めるウィリアムは、私の剣を払いのけて後退した。

 彼は腹の出血を押さえて力無い笑みをこぼす。


「おか、しいな……なぜ君は、そんなに余裕、なのかな? ここまで、差が出るのは……不思議、だ。ひょっとして、痩せ我慢でもしているのかい……?」


「まさか。私は正直者ですから、いつだってありのままの姿ですよ。演技とか人を騙すとかは苦手なのです」


 両手を広げて柔和な笑みを湛える。

 ウィリアムの頬が痙攣し、眠たげな目に死の陰りが覗いた。

 私は悠々と歩み寄りながら語りかける。


「戦況は歴然です。ずっと優勢だったにも関わらず、どうしてあなたが追い詰められているか分かりますか」


「…………君がまだ本気じゃない、とか?」


「その通り。私なりに力を調整しているのですよ。お互いに楽しめる展開になればいいと思いまして」


 私は握手ができるくらいの距離で足を止める。

 若干の沈黙を挟んで、ウィリアムが問いかけてきた。


「手加減、とは違うの……かな」


「ええ、少し違いますね。設定した枠組みの中では力を尽くしていますから。言葉で説明するのは難しいのですが、加減をせずに加減していたのです」


 私はゆったりと述べつつ、ウィリアムの肩に手を置く。

 彼は抵抗しなかった。

 ただじっとこちらを見つめている。

 私は笑みを深めて告げる。


「ウィリアム、あなたはとても強い。恵まれた才能に驕らず、弛まぬ努力を重ねて素晴らしい剣士となった。他の人間が束になろうと、決してあなたには敵わない。祖国に裏切られた想いすらも糧にして、狂気に浸りながら刃を研いでいる。その強靭な執念には敬服します」


「……へえ。ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。まさか肯定してもらえるなんて思わなかった」


「事実を述べただけです。私はあなたを高く評価しているのですよ」


 正直な感想を伝えると、ウィリアムは泣きそうな笑いを浮かべた。

 その双眸には死の他に諦念と絶望が淀んでいる。

 己の戦う相手が真に底無しだと気付いてしまったのだろう。

 そう感じさせたことに罪悪感を覚えるも、表情に出すことは決してなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ