第80話 剣術の差
私とウィリアムは高速戦闘を繰り広げる。
監獄内を破壊しながら縦横無尽に展開した。
ウィリアムの攻撃は過激になっていく。
空間魔術による短距離転移や、空中移動を惜しまず使って、時には私を空間の歪みに巻き込んで即死させようとした。
変幻自在の能力とは別に、根幹の剣術も猛威を振るってくる。
対する私は防戦一方だった。
飛び退きながら攻撃を弾くか受け流すばかりである。
剣は刃こぼれが悪化し、力加減の一つで折れてしまいそうだった。
無銘の安物にしてはよく持っているが、破損させているのは私の技術不足だろう。
(凄まじい能力です。このような人物をよく収監できましたね)
ウィリアムは一騎当千の実力を持つ。
魔導国が取り押さえるのは困難なのではないか。
きっと砂漠の大陸で発掘した古代の技術を用いて、監獄に叩き込んだに違いない。
彼ほどの騎士でも捕えられるような道具か術があるのだろう。
私も注意しなければいけないかもしれない。
今後について懸念事項について考えつつ、ウィリアムの猛攻に対処する。
それからどれほどの時間が経ったろうか。
私達は監獄内の最下層にいた。
周囲の瓦礫には潰れた肉塊のような物がへばり付いている。
ここにいた囚人達だ。
私とウィリアムの戦いの余波に巻き込まれてしまったらしい。
その中に勇者パーティーがいなかったことは確認済みである。
彼らはもう少し上の区画に幽閉されているようだった。
途中、周りへの被害を考えていない瞬間があったので、彼らが死ななくて本当によかった。
「はぁ……はぁ、はぁ……くそ、疲れ、たな……」
ウィリアムは剣を下げて荒い呼吸をしている。
浮かべた苦笑も疲労に染まっていた。
まだ大きな怪我はしていないが、今にも倒れてしまうのではないかと心配になるほどの有様である。
「少し休憩しますか。別に構いませんよ」
そう提案する私の呼吸は一つも乱れていない。
汗も掻かずに自然体で剣を構えている。
戦闘が始まった当初と何も変わらない。
剣の刃こぼれもまだ許容できる範疇だ。
使い方に気を付ければ、いきなり折れることもなさそうだった。
(だんだんと差が開いてきましたね。ここらが潮時ですか)
攻勢のはずのウィリアムが、徐々に劣勢へと押し込まれている。
単純に肉体の限界が迫りつつあるのだ。
彼は常に最高以上の動きを強いられてきた。
本来なら瞬間的にしか発揮できない集中力を無理やり維持しているのだ。
空間魔術の連発も要因の一つだろう。
ここまで戦ってみて分かった。
ウィリアムの多彩な戦い方の中でも、空間魔術の練度は最も浅い。
一般的な魔術師に比べれば達人の領域だが、ほんの僅かばかり粗が目立つ。
非常に強力な能力であると同時に、数少ない弱点でもあった。
それでもウィリアムが空間魔術を頻発した理由は明白だ。
自前の能力だけでは、圧倒的な実力を持つ私に敵わないと理解したからだろう。
私達の間には、埋めがたい力の格差があった。