第8話 長老の決断
その後、私は長老と共に新たな契約内容を決める。
前金を受け取って予約を完了させた。
これによって魔王の依頼が済んだ後、私はすぐにハイエルフの依頼を開始することになった。
報酬額は長老が奮発した上、肝心の内容もそう難しいものではない。
余力を残して依頼を進められるだろう。
(ハイエルフは話の分かる人物だった。おかげで無血のまま秘宝が手に入りそうだ)
私は精神的に充実していた。
立て続けに仕事を取ることができた。
しかも新規の契約である。
勇者パーティーに追放されてしまったが、これは悪くない流れと言えよう。
やはり積極的な行動が功を奏すのだ。
売り込みや宣伝が大切だと改めて実感したところで、私は立ち上がって手を打つ。
そして、朗らかに長老を促した。
「予約ができたところで、そろそろ闇の秘宝に案内してもらえますかね」
「……分かった」
長老が重い腰を上げて部屋を出た。
やはりまだ躊躇いが見えるものの、前言を撤回するほどではないようだ。
その瞬間、私が攻勢に出ると確信しているのだろう。
魔王に闇の秘宝を渡してはいけないが、逆らうことを許されない状況である。
板挟みとなった長老はもがき苦しんでいた。
私はその葛藤ぶりを横で楽しみながら付いていく。
エルフの森は樹木の上に住居がある。
精密な建築技術によって風景と調和していた。
ここに暮らすエルフ達は、地上と樹木の上を行き来しながらひっそりと過ごしている。
そんな彼らは、遠巻きに私と長老を注視していた。
向けられる視線の大半が嫌悪や憎悪に満ちている。
私のようなよそ者は歓迎されないのだ。
ましてや闇の秘宝を取りに来た悪党なのだから仕方あるまい。
辛うじて戦闘に発展しなかったのは、長老が不干渉を命じたからだろう。
余計な犠牲者を出さないための指示である。
それが行き届いているため、こうして眺めてくるだけで済んでいるのだった。
「さすがエルフの森ですね。唯一無二の美しい景色です」
「くれぐれも他の者達を傷付けないでくれ」
「正当防衛はしますが、それ以外は大人しくするのでご安心を。形ばかりとは言え、私も剣聖と呼ばれた人間ですからね。不必要な殺戮は望みません」
慇懃に語ってみせるも、長老の目は懐疑的だった。
この平穏が薄氷の上にあり、私の機嫌一つで粉々に砕け散ると理解している。
向けられる恐れを知りながら、私は微笑みを返す。