第79話 剣聖と騎士
私とウィリアムは同時に動き出す。
次の瞬間には互いの剣が衝突していた。
そこから残像を発生させながらの連撃へと移行する。
攻撃防御攻撃攻撃防御。
切り返せば防がれ、突かれれば弾き、振り下ろされれば受け流す。
そのまた逆も然り。
私達は己の剣技を駆使して、相手の命を狙い続ける。
ウィリアムの流派はかなり変則的だった。
おそらくは複数の剣技を学び、それを独学で統合したのだろう。
小ぶりな連撃を頻発し、相手の体勢を崩して隙を作ることに特化している。
加えて己の隙を見せないことを念頭に置いた型だ。
さらに蹴りや肘打ちといった格闘技に繋げてくるので、剣術以外の武術も採り入れている。
とにかく相手に動きを予測されないための立ち回りだった。
(しかし、一つひとつの技術の練度が高い。血の滲むような鍛練を重ねたのでしょうね)
ウィリアムと同じことを凡人が真似れば、半端な弱い剣士が生まれるだけだ。
妙な癖ばかりが目立ち、際立った長所を持たない状態となる。
そうならなかったのは、常軌を逸した努力が実を結んだからだろう。
きっと実戦で進化させてきた独自剣術なのだ。
ウィリアムの剣は、大量の人間を殺してきたという重みを感じさせる。
彼の戦歴など知らないが、きっと間違いない。
ウィリアムは完成された本物の剣士である。
屍から戦技を吸収しながら、ここまでやってきた。
(素晴らしい。良いですね、さらに楽しめそうです……!)
私は堪え切れない喜びを感じながら剣を振るう。
死角から殺気。
認識する前に弾いて凌ぐ。
一瞬だけ目を向けると、空間から刃の切っ先が飛び出していた。
ウィリアムが空間魔術で仕掛けてきたのだろう。
看守長の人形を破壊したのと同じ手段だった。
ウィリアムは空間魔術を見事に使いこなしている。
肉体のどこかに術式を刻んでいるらしく、無詠唱で発動できるようだ。
高速の打ち合いの中で、何度も不意打ちを試みてくる。
それが無理やりではなく、本気で殺しにかかってきているのだ。
攻防の流れで絶妙に防ぎにくい瞬間を狙ってくる。
未だに攻撃は受けていないものの、危うい場面はいくつもあった。
ナイアは少し離れた場所でこちらを見守っている。
その気になれば加勢できるはずだが、彼女が動く気配はない。
きっと分かっているのだ。
この戦いは第三者が気軽に手を出していいものではない。
私とウィリアムは、今という時間を狂おしいほどに深く味わっているのだった。




