第78話 二人の剣士
私は眼前の剣士を見て微笑した。
そして、彼の魔力の属性を感じ取る。
(元騎士団長ウィリアムは空間魔術の使い手でしたか。いや、人体実験で覚醒したのですかね)
どちらが正解かは分からない。
魔導国の実験ならば、適性を持たない魔術を強制的に習得させることも可能ではないか。
砂漠の大陸で得た技術を併用することで実現できそうな気もする。
ナイアなら何か知っていそうだが、残念ながら悠長に質問会をしている場合でもない。
ウィリアムは空間魔術を使いこなしている。
確たる事実はもう分かっているのだ。
余計な考察は不要だろう。
看守長の人形を破壊したウィリアムは、淡い笑みを湛えていた。
ゆらゆらと左右に身体を揺らしている。
まるきり素人の佇まいに見えるが、これは偽装である。
彼の筋肉は一切の緊張がないことを示している。
素人ならばこの場で緊張や恐怖を覚えるはずだ。
殺気も発さず、脱力していられることが、ウィリアムの実力を如実に語っていた。
先ほどの攻撃を見るに、初動は恐ろしいほどに速い。
一瞬の油断も許されないだろう。
(相当な手練れですね。能力に驕った部分もない。剣士として完成している)
これほどまでに両立できた者は珍しい。
長年に渡って戦場を見てきたが、数えるほどしかいなかったろう。
超人が才能を持て余さず、気の狂うほど濃密な鍛練に明け暮れることで到達するような境地だ。
まさかこのような場所で出会えるとは思わなかった。
ある種の感動に浸っていると、ウィリアムが話しかけてきた。
「リゼンといったかな。君は護衛に慣れていないね。単独行動に特化しすぎて、誰かと協力することが不得手らしい。佇まいでよく分かるよ」
「いやはや、お恥ずかしい。まさしくその通りですよ。相手を斬り殺すのは得意なのですが」
苦手分野と言うほどではないものの、研鑽が浅いのは事実だ。
私の技は攻撃のための剣であり、守るためではない。
協調性も皆無だ。
それを技術で誤魔化しているだけで、ウィリアムの指摘は真っ当であった。
私は調子を崩さずに微笑し、ゆっくりと剣を構えてみせる。
「やられっぱなしも情けないですからね。私の得意分野を披露しましょうか」
「素晴らしい、是非とも見せてくれ。どうせ話し合っても意味がない。一方が死ぬまで殺し合おう」
ウィリアムが魔力を高めながら述べる。
収縮する瞳は、毒々しい殺意を垂れ流し始めていた。