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第74話 力の格差

 迫るハエルメンが左右の拳で高速の連打を浴びせてくる。

 壁や床を陥没させる攻撃に対し、私は受け流しを選択した。

 その場から一切動かずに捌き続ける。


 別に難しいことではない。

 ハエルメンの動きは素人同然だった。

 近接戦闘の心得は皆無のようで、先読みは実に容易い。

 むしろこれで当たる方が大変だろう。


 叩き込まれた拳を天井に逃がしつつ、私は冷ややかに評価する。


「動きが大雑把ですね」


「黙れェッ!」


 怒り狂ったハエルメンが掴んでこようとしてきた。

 私は素早く身を翻してその両腕を切断する。

 魔力で肥大化した腕はあっさりと床に転がった。

 断面から血が迸って痙攣する。


 叫ぶハエルメンをよそに私は彼の隣を通り抜ける。

 そうして両脚も膝の上で切り落とした。

 僅かな抵抗もなく、滑らかな断面が晒される。


 四肢を失ったハエルメンは派手に転倒した。

 彼は自らの血で汚れながら暴れ出す。

 そのたびに鮮血が跳ねた。


「これでは手も足も出ませんかね」


 皮肉を飛ばしてみるも、反応は薄い。

 ハエルメンは泣き叫ぶばかりでこちらを見ようともしない。

 どうやら現実を受け入れられないらしい。

 自らの大敗がよほど信じ難いようだ。


 私は軽蔑を隠さずに剣を掲げる。


「残念です。私の知る"最強"とは違ったようですね」


「ちょ、待――」


「いいえ、速やかに死んでください」


 最後に正気が戻ろうとしたが、関係ない。

 私はハエルメンの首を切断する。


 恐怖に歪んだ顔が固まり、そこから再生してくることはなかった。

 さすがにそこまでの力はなかったらしい。

 筋肉に包まれた身体から魔力が噴き上がって枯れ始める。

 囚人から奪った力が抜けて、本体の姿に戻ろうとしているようだ。


「革命家の本領は扇動です。前線で戦うのは悪手でしたね。もっとも、数の利を活かしたところで私には敵いませんが」


 私は剣を鞘に納めると、看守長とナイアを促す。

 二人はこの結果にも驚かずに立っていた。


「さて、先を急ぎましょう。まだまだ脱獄囚がいるようですからね」


『もう少し余韻はないのか? 相手は結構な強敵じゃったが』


「印象に残るほどの強さではありませんでした。特殊能力に頼ってばかりで、武の研鑽が感じられませんでしたね。その時点で論外です」


 瞬間的な火力はそれなりで、魔族でも殴り殺せそうな領域にあった。

 しかし、それでも別に私の命を脅かすほどではない。

 つまり記憶するに値しないほどの相手なのだ。

 何より技術を軽視する姿勢は許容できない。

 努力を怠る者に思考を割くほど暇ではないのである。

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