第73話 砕けぬ刃
さして広くない廊下を光線の投射が埋め尽くす。
躍起になったハエルメンは、凄まじい密度で攻撃を連打した。
彼の神経質な叫びが反響する。
「俺様の支配は最強なんだァ! ようやく脱獄できたってのに、やられるわけにはいかねぇんだよ!」
「そうですか。ではもっと頑張ってくださいね」
私は涼しく返して歩を進めて、飛んでくる光線を残らず斬って破壊していった。
一見すると対処困難な攻撃に見えるが、しっかりと観察すれば容易に見切ることができる。
これだけ何度も放たれれば、特性はほぼ完全に看破できた。
故に当たるはずもなく、試しに当たってやるほどの興味も失われている。
私は光線を斬りながらハエルメンの表情を注視する。
(焦りと怒り……そこに僅かな恐怖が混ざっていますね。埋めようのない実力差を察しましたか)
しかし、もう後には引けない状況だ。
ハエルメンは攻撃に没頭するしかない。
防御か撤退を選べば、即座に斬り殺される。
彼はそれを直感的に理解しているはずだ。
無論、私はそれを一切の躊躇いもなく実行するつもりだった。
「なぜ剣で防御できるのだ? 特殊な武器には見えないが……」
『剣の性能ではなく、純粋な技術じゃよ。リゼンは真性の規格外なのじゃ。深く考えるだけ無駄じゃと思っておるよ』
看守長とナイアがなにやら後ろで言っている。
困惑する看守長は私の剣術に驚嘆しているらしい。
身を以て知っているナイアは、どこか諦めた様子で解説していた。
二人とも私の防御範囲内にいるので油断していても安全である。
その時、光線の放射を止めたハエルメンが殴りかかってきた。
手には鋼鉄製の建材が握られている。
「うおらァッ!」
力任せの一撃に対し、私はひとまず回避を選んだ。
上体を軽く傾けて避けると、緩やかな速度で反撃の刃を閃かせる。
ハエルメンは胴体を切り裂かれながらも、強引に二撃目を叩き込んできた。
私は振り下ろされた建材を切断して凌ぎつつ、さらに割れた胴体に二度の刺突を打つ。
大きく抉れたハエルメンの胴体が煙を噴き上げながら再生していく。
様子見で限界まで加減したとはいえ、なかなかの回復力である。
さらに刃の衝撃を意図的に外に逃がしているようだった。
ハエルメンは身体強化で筋肉を膨張させながら大笑いする。
「俺様は囚人の魔力を奪い尽くしてやった! 支配の力なんて使わなくても最強なんだよォ!」
「最強とは良い響きですね。では見せてください」
「後悔しても知らねぇぞッ!」
肥大化したハエルメンは、魔物のような勢いで突貫してきた。