第70話 脱獄の原因
視界の悪い廊下を私達は進んでいく。
途中、牢屋から飛び出した囚人らしき者が次々と襲いかかってきた。
私は彼らを一太刀で抹殺する。
待ち伏せしていたつもりなのかもしれないが、気配が丸分かりである。
たとえ高度な隠密魔術だろうと見破れるだろう。
戦闘でほぼ必須のため、感知能力はよく鍛えている。
それにしても囚人達は全体的に実力者ばかりが揃っていた。
元より魔術耐性で選ばれているので肉体が強靭なのもあるが、おそらくは人体実験の影響ではないか。
やたらと身体能力が高かったり、不自然に魔術の威力が高かった。
ただし、囚人の大半が錯乱している様子だ。
過酷な実験は精神崩壊を招くようだ。
私を先頭にして進む中、看守長が解説する。
「この区画は機能不全に陥っている。脱獄囚が細工したのだろう。一部の感知魔術は機能するが、精度は信用ならない」
「別に構いませんよ。その辺りは自分でやれますから」
そう言いながら私は五人の囚人をまとめて叩き斬る。
彼らの残骸が壁に四散し、ナイアが嫌そうな声で呻く。
やがて通路の先が漆黒に覆われた場所に突き当たった。
迂回路はなく、ここを進むしかなさそうだ。
観察を終えた私は漆黒の正体を見抜く。
「今度は魔術の闇ですか」
「防衛装置の一つだ。肉眼では決して見通せない。囚人が発動させたようだ」
「見事に利用されたわけですね」
「……すまない。こちらの落ち度だ」
「責めるつもりはありませんよ。誰にだって失敗はつきものです。それを支えるのが仲間でしょう」
私は魔術の闇を切り払いながら歩く。
闇の中には大勢の囚人が身を隠していた。
彼らは身を隠す闇を失ったことで困惑しながらも、すぐさま襲いかかろうとする。
しかし、その一瞬の困惑の間に、私は剣を何度も振っていた。
動き出した拍子に囚人達は肉塊になる。
体内から転がり出た金属部品は実験の一部だろうか。
看守長は特に言及せず、私もあまり興味がなかった。
とりあえず視界内の囚人を屍に変えながら進む。
「妙に数が多いですね」
「収容人数はおよそ二千人。脱獄囚が拘束を解除して、連鎖的に規模を増やしたのだろう」
「どうしてそこまでの不手際が起きたのでしょう」
「監獄の外で発生した魔力の衝撃波で装置が故障したのだ。大魔術の直撃だろうがびくともしない設計なのだが……」
『もしやリゼンの斬撃が原因か?』
「おそらくそうだろう。計器でも同一人物だという測定結果が出ている」
ナイアと看守長が同時にこちらを見てくる。
前方一帯を切り払った私は、苦笑気味に頬を掻いた。
「いやはや、参りましたね。申し訳ありません。ここまで自由に戦えるのは久々でして、ちょっと張り切ってしまいました」
たまには失敗だってする。
完璧な仕事から若干外れてしまった気もするが、まあ挽回できるだろう。




