第7話 封印の地
長老は熟考する。
それも当然のことだろう。
発言の一つひとつがエルフ族の未来を定めるのだ。
私の実力と危険性にも気付いているため、かなり慎重になっている。
しばらく黙り込んだ後、長老は私に質問する。
「……では、今ここで新たな契約を結ぶことは可能か」
「同時に一つまでと決めていますが、予約ならできますね。闇の秘宝を魔王に渡した段階から取りかかる形になります」
魔王は試しに私と契約した。
今後については取り決めていないため、早い者勝ちとなっている。
長老が契約の予約をすることは可能だった。
(そこに気付くとは、なかなかやりますね。危機回避に執心しているようで)
私は長老の判断力に感心する。
決して気の抜けない局面で、最適解を見い出そうとしていた。
ここで迂闊なことをするようなら、再び強硬手段に出てもいいかと考えていた。
ところがハイエルフの長老は、実に冷静である。
なるべく彼の意向に沿った形で進められればと思う。
「どうします? あなたも私を雇ってみますか」
「予約でも構わぬ。お主と契約をさせてほしい」
「分かりました。それでは契約形態についてご説明します」
私は嬉々として一太刀につき金貨一枚の契約の詳細説明をした。
もっとも、中身は大した内容ではない。
経緯説明の際に触れていたので、長老はすんなりと理解した。
細かい制約はあると便利だが、柔軟性が無くなるため私はあまり好きではない。
状況や相手を問わない契約を実現するため、抽象的な部分も多いのだった。
契約の全容を知った長老は、神妙な顔で唸る。
「しかし、たった金貨十枚で闇の秘宝を探しに来るとは……」
「私にとっては意味のあることなのですよ」
「割に合わぬのではないか。何か裏でもなければ理解できぬ話だ」
長老の指摘は、言うまでもなく正である。
私はたった十枚の金貨で魔王に加担し、人類と敵対する行為を強行している。
エルフ族とは殺し合う寸前にまで至った。
確かに割に合わないだろう。
それを理解した上で、私は立ち上がって長老を見下ろす。
目を見開きながら、瞬きをせず丁寧に主張した。
「私の契約は究極の自己満足です。あなたは余計なことを考えずに利用すれば良いと思いますよ」
「…………うむ」
長老は言葉に詰まりながらも頷く。
彼からそれ以上の言及はなかった。