第69話 囚人区画
移動装置が下降する中、人形越しに看守長が報告する。
「監獄内の装置を有効化した。装置が生きている区画では援護できるだろう」
「ありがとうございます、助かります。ちなみにこの人形に戦闘能力はあるのですか」
「囚人を鎮圧するための武装は搭載しているが過信できるほどではない。優れた戦士が相手では効果も薄い」
「なるほど。では私が頑張るしかありませんね」
私は剣を振りながら微笑む。
するとナイアが片手を上げて元気に表明する。
『吾もいるぞっ』
「ナイアさんは荷物持ちじゃないですか。役割を忘れないでください」
『どうして叱られているのじゃ……?』
ナイアが肩を落として悲しげに言う。
私はそんな彼女を放って看守長に質問した。
「ところで、砂漠の大陸に収監される囚人とは何者なのでしょう。ただの犯罪者ではないと思いますが」
「魔導国で捕えた政治犯や捕虜の中でも、魔術的な耐性を持つ人間達だ。その方が実験体として使い勝手が良い」
「ふむ。大陸内での研究資源になっているのですね。この監獄は実験体の収容施設というわけですか」
「一部の区画では人体実験も進めているがな。基本的にはその解釈で間違いない」
砂漠の大陸は魔導国による独自運用が常態化しているらしい。
広大な土地を余すことなく利用し、様々な機能や用途に分けて施設を建てて運営している。
なんとも大胆なことである。
果たして何年前からこのような状態だったのか。
一方でナイアは重い口調で唸る。
『古代の魔術の人体実験とは……いつの時代も残酷じゃな』
「文明の進歩には犠牲がつきものです。誰かが汚名を被ることで飛躍するのですよ」
『意外じゃな。リゼンは実験を肯定するのか』
「便利な世の中になるのならば歓迎ですよ。争いが増えるのは悲しいことですが」
殺し合いなど起きない方がいい。
しかし、実際にそんなことはありえないのだ。
私のような暴力はどこでも歓迎される。
それが世界の真理だろう。
間もなく装置が停止する。
そこは薄暗い通路だった。
光源が破壊されて先が上手く見通せない。
看守長が緊張を孕んだ声で説明する。
「ここから下の階は別の装置で移動する。脱獄囚が潜伏しているかもしれないので注意しろ」
「分かりました。看守長さんは案内に専念してください。はしゃぐ囚人は私が対処しましょう」
『リゼン! 吾も! 吾もいけるぞっ! 崩剣の奥義とか使えてしまうぞ!』
「ナイアさんは荷物持ちです。では行きましょうか」
私は意気揚々と暗闇へ踏み込むのだった。