第67話 監視の目
本日二度目の更新です。
しばらく進むと道が三本に分岐した。
ちょうど十字の形になっている。
案内図があるわけでもないため、どの道が地下に続くか分からない。
とりあえず直感で真ん中を選ぶ。
別に間違っていても構わない。
その時は床をぶち抜いて最短距離で進むだけである。
監獄内は静寂に包まれていた。
職員の姿は見当たらない。
予め遠くに避難しているようだ。
様々な機器が置かれているせいで魔力反応が乱れがちだった。
屋内では精密な感知が難しそうである。
ただ、勇者パーティーの位置は常に把握していた。
彼らは地下深くから動いていない。
未だ拘束されているようだ。
移動の途中、ナイアがふと首を傾げてみせた。
『ところで、なぜ奴らは吾らを監獄内まで案内せんのじゃろう? さっさと勇者パーティーを引き渡せばいいと思うのじゃが』
「それは私も気になりました。何らかの理由があるようですね」
私は天井の端を注視する。
一見すると何もないように思えるが、どうやら遠視の魔術が施されているようだった。
監獄側の人間が私達を見つめている。
(罠でしょうか。いや、それは考えにくい。牢獄陣営は厄介な問題を抱えているようです)
何らかの事情があるのだろう。
対面したあの場では言いづらかったのではないか。
向こうからすれば、剣聖リゼンは凄まじく危険な存在なのだ。
受け答えにも細心の注意を払う。
その上で不味い話題を避けたに違いない。
別に腹を立てることはなかった。
彼らの心情はよく分かる。
むしろよくやった方だと称賛したいくらいであった。
誰だって後ろめたいことを抱えているものだ。
いちいち非難するほど心は狭くない。
何か問題があるのなら、後ほど判明するだろう。
「結局はどんな障害も斬り伏せればいいのです。余計な心配事で頭を悩ませなくていいのですよ。ナイアさんも楽しんでいきましょう」
『……ううむ、リゼンは一貫しておるな』
「やるべきことに変わりはありませんから。時には思考を放棄するのも良いと思いますね」
『それならば戦闘で吾を使ってくれ。崩剣の使い手として数多の敵を蹂躙するのじゃ』
「お断りします」
私が即答すると、ナイアは大げさに肩を落とす。
荷物持ちをしながらも、未だに武器としての役割を諦めていないらしい。
やはりその膨大な力を発揮するのが生き甲斐のようだ。
(そんなに活躍したいのなら、勇者殿に譲ってしまいましょうかね)
力を渇望する彼にこそ適しているのではないか。
聖剣シアレスと合わせて双剣使いとなるのだ。
悪くない話だろう。
関係者の誰もが得をする。
勇者が駄目でも、あのパーティーの誰かに譲ればいい。
監獄内を歩きながら、私はナイアの譲渡計画について考えるのだった。
もし『面白かった』『続きが気になる』と思っていただけましたら、下記の評価ボタンを押して応援してもらえますと嬉しいです。