第66話 監獄
看守長の度胸を評価しつつ、私は彼らに向けて宣言する。
「分かりました。皆さんには攻撃しません。ただし、反撃には応じますので悪しからず」
「了解した。温情に感謝する」
「いえいえ、こちらとしても助かりますよ。手間が省けますからね」
気軽に応じながら彼らの間を抜けて監獄内へと入る。
いくつもの防御設備があるが、いずれも無力化されていた。
私達の到来に際して切っておいたのだろう。
準備が良さに苦笑する。
間もなく背後で扉が閉まった。
監獄内は天井から注ぐ魔力の光で均一な明るさが保たれていた。
しばらくは扉もなく一直線の通路が続いている。
特に説明はなかったが、道に従って進むべきだろう。
歩き始めてすぐにナイアが疑問を呈する。
『奴らを殺さぬのか? 別に生かしておく理由もなかろう』
「協力者は多いに越したことはありませんからね。まあ、その場合は裏切りを警戒しますが、彼らについては大丈夫です」
『根拠は何じゃ』
「看守長です。彼女は私との敵対を強く恐れています。部下の統率も取れていますし、下手なことはしないと思いますよ」
彼女の持つ魔眼は、対象の戦歴を視ることができると言っていた。
確かに私の戦った相手を的中させていたので、能力に嘘はなさそうだ。
魔導国の調査力があったとしても、聖剣シアレスや崩剣ナイアと戦ったことを把握できるとは思えない。
看守長は魔眼を利用して私の実力を理解した。
きっと砂漠の大陸に入ってからの戦闘も知っていたはずだ。
仲間からの連絡もあったろうが、彼女の場合はより鮮明に捕捉していたのだろう。
だからこそ戦力差に絶望しているのではないか。
そして自らの管轄下だけでも被害を減らそうと尽力した。
結果的に国を裏切るという判断にまで踏み切ったのである。
(なかなかに優秀そうな人物でした。生存能力に長けていそうです)
別に私は快楽殺人者ではない。
懸命な判断をした人間まで問答無用で排除する気はなかった。
彼らを始末せずとも依頼に支障はない。
誤差の範囲である。
戦闘をせずに会話で監獄に侵入できたのだから、むしろ効率的で完璧に近いと言えよう。
「まあ、いざとなれば皆殺しにできます。彼らの判断が私達の目的に影響することはありません」
『その辺りの考えは本当に冷徹じゃな……』
「合理的なだけですよ。契約遂行に感情は不要です」
私は朗らかにそう述べる。
ナイアは何か言いたげだが、嘆息して言葉を呑み込んだ。




