第60話 竜機鎧
私は竜機鎧を着た兵士を観察する。
彼らは計五人の少数部隊だった。
それぞれが別の武器を持っている。
いずれも高度な魔術武器だ。
発掘した武器に独自改良を施した物だろう。
彼らの周囲は大気の魔力が乱れていた。
竜機鎧が吸い込んでいるのが原因のようだ。
今まで私の迎撃を担当していた一般兵が我先にと退避している。
その場に残ったのは、竜機鎧を纏う五人のみとなった。
(魔力吸収は無差別に作用するようですね。だから味方も近くにいられないのでしょう)
つまり味方の支援は受けられないということだ。
かと言って竜機鎧の数を増やすと、魔力吸収が競合してしまう。
結果として兵器の性能を十全に活かせなくなる。
魔力の乱れから推測するに、同じ戦場に集うのは七人前後が限界だ。
それ以上の投入は自滅することになるだろう。
竜機鎧とは、少数精鋭に特化した魔術兵器なのだ。
ナイアの特性を模倣したとのことだが、現代の技術力では困難に違いない。
発掘した兵器に手を加えただけとはいえ、魔導国の工夫には驚かされる。
私は微笑を深めながら五人を見回す。
彼らは一定の距離から近付いて来ようとしない。
兵器の使い手も優秀だ。
迂闊な真似をするほど愚かではないようだ。
私は柄を握る手に力を込めながら呟く。
「ふむ。多少は楽しめそうです」
『気を付けろ。魔力を伴う攻撃は効きが悪い。リゼンでも勝つのは厳しいはずじゃ』
「心配には及びませんよ。悲観するほど強敵ではありませんから」
私が挑発的に述べると、竜機鎧の部隊が反応した。
隠し切れない怒気が滲み出ている。
兜で顔は見えないが、私の態度が気に食わないのは明白だった。
きっと己の力に絶対的な自信を持っているのだ。
だから侮辱されて腹を立てている。
今すぐにでも暴力による異を唱えたいと考えているのではないか。
それを理性で抑え込んでいる。
私は膨らみ上がる殺気を正面から受け止めて構えを取る。
「魔導国の底力、見せてもらいましょうか」
言い終えると同時に駆け出す。
すぐさま五人が反応した。
大剣と槍と盾を持つ三人が前進し、二本の杖を持つ者は後方で待機する。
弓矢を持つ者は回り込むように移動した。
五人とも洗練された立ち回りだ。
何度も訓練をして培ってきたのだろう。
前衛の三人が武器を手に先制攻撃を繰り出してきた。
さらに杖持ちが強化魔術を付与し、弓使いは死角から矢を放つ。
回避も防御も難しい一斉攻撃だった。
すべてが完璧に噛み合っている。
それほど複雑な連携ではないが、故に上手く機能していた。
彼らの練度に感心しつつ、私は迫る攻撃を前に微笑む。
「一太刀につき金貨一枚」
横薙ぎに剣を振り抜いてみせる。
ただ一度の斬撃は、大剣と槍と盾と矢を粉々に粉砕した。