第6話 妥協しない精神
その後、私はハイエルフの導きで森の奥にある居住区に向かった。
他のエルフ達が大反対するも、ハイエルフはただの一喝で黙らせてみせた。
話を聞けば、ハイエルフはこの居住区の長老らしい。
森の実質的な最高責任者である。
その立場に驕らず、今も甚大な研鑽を重ねているため、森のエルフから尊敬の念を集めているそうだ。
そんな人格者である長老も、剣聖リゼンを相手にするとさすがに緊張するらしい。
きっとこびり付いた死の気配を感じ取ったのだろう。
仕草や表情は出ていないものの、滲み出る兆しは隠すことができないものだ。
私はその辺りの嗅覚は鋭いのである。
しばらくして私達は、長老の自宅に到着した。
中でローテーブルを挟んで対話を開始する。
さっそく私はこの森に来た経緯を正直に伝えることにした。
出来事を時系列順に話していく。
別に隠したいこともないので構わないだろう。
話を聞き終えた長老は難しい顔で唸っている。
「……というわけで、私は魔王からの使いで秘宝の回収に来ました。何か質問はありますか?」
「我々が要望を断った場合はどうする」
「それはまあ、実力行使になりますね。私はまだ八回も攻撃できますので、この森とエルフの皆さんを破壊し尽くすつもりです」
私は包み隠さず回答した。
どうせ下手な嘘は見破られる。
そう思わせるほどに長老の眼力は凄まじい。
すべてを見通せるような強さがありそうだった。
長老はいきなり立ち上がると、殺気を覗かせながら反論する。
「破壊し尽くす、じゃと? させぬぞ。神聖なる土地を穢すことは許さん」
「そちらの立場と主張は理解しています。その上で宣言しているのです」
私は長老を宥めながら言うと、そのまま説明を続けた。
「話し合いでの解決がお嫌いでしたら、別の決着でもいいですよ。私の一太刀とあなたの高位魔術……どちらが優れているか試してみますか?」
やんわりと挑発するも、長老は首を横に振る。
どこか悲しげで悔しげな表情だった。
「それは無茶だ。一族の総力を以ってしても、お主には到底及ぶまい」
「私もそう思います。だから平和的に妥協点を見つけましょう」
私は手を打って明るく言った。
訝しそうに視線を強めた長老は、確認事項を念押ししてきた。。
「お主は魔王の依頼――闇の秘宝を諦めるつもりはないのじゃな?」
「ええ。何らかの妨害で死ぬか、残りの攻撃回数が尽きない限りは強行しますよ」
私が断言すると、長老は微妙な顔をする。
こちらが本気であると伝わっているが故の反応だった。
だんだんと愉快になってきた。
せっかくなので、長老とは本音で話し合いたいと思う。