第55話 二種の剣
艦隊を倒した私は、砂漠の大陸に難なく上陸する。
待ち構えていたと思しき兵士達は、私の斬撃と爆発の余波で死んでいた。
それほどまでの破壊の規模だったのだ。
生身で直撃しては耐えられまい。
現在も海上では盛大に火の手が上がっていた。
阿鼻叫喚の大騒ぎだが、生憎と私の知ったことではなかった。
彼らの自業自得である。
私は周囲を見渡す。
元はただの平地だったらしいその場所には、いくつもの建造物があった。
地形を削って艦隊を待機させておく場所も設けている。
あちこちに外壁まであり、徹底的な防衛体制が築かれていた。
ただし現在はあちこちが壊滅状態で機能していない。
爆発に加えて、私の斬撃がここまで届いていたようだ。
立派な軍事施設が崩れて爆発を連鎖させている。
(相当な改造が施されていますね。外部からの干渉を嫌っているようで)
感心しながら探索していると、脳内に思念が飛んできた。
それは聞き慣れた聖剣シアレスの声だった。
『――剣聖リゼン。随分と早い到着だな。我らのために急いだのか』
「どうもシアレスさん。莫大な報酬を貰った以上、私だって配慮はしますよ。素敵な剣をありがとうございます」
『それは有り難いが、この気配は……』
シアレスが露骨に嫌そうな気配を見せる。
すると、ナイアがこれみよがしに発言した。
『久方ぶりじゃなぁ、シアレス。未だに聖剣を名乗るとは恥ずかしい奴め』
『問題児のナイア。まさか汝が報酬になるとは思わなかった。リゼンならば別の宝物を選ぶかと考えていたのだが』
シアレスの非難めいた思念を感じ取る。
どうやらナイアとの再会は望んでいなかったらしい。
仲が悪いと聞いていたので納得の反応だった。
「すみませんね。面白そうだったのでナイアさんを選びました」
『ふははははは! やはりリゼンはよく分かっておる! 堅物のシアレスとは違うのじゃよォっ!』
『ぐっ、危険すぎて封じられた崩剣がよくも言えたものだ……』
シアレスとナイアが好き勝手に言い合う。
このままでは終わりそうにないので、私は話の軌道修正をすることにした。
「口喧嘩は後にしてください。シアレスさん、そちらの状況を教えてくださいますか」
『すまない、つい熱くなってしまった。我々は組織に捕まっている。半日ほど前に追い詰められたのだ』
「ふむ。良くない状況ですね」
『殺されなかったということは、人質として使う気なのだろう。勇者パーティーを何らかの交渉材料にするつもりに違いない』
シアレスは神妙な口調で推測する。
きっとその考えは遠からず真実を射ているだろう。
私も同じ見解だった。
(謎の組織はさらなる暗躍を企んでいますね。勇者パーティーが乗り込んできたのは偶然でしょうが……)
細かい部分は実際に調べないと分からない。
考えをまとめつつ、私はシアレスに方針を伝える。
「まずは皆さんの救出が先ですね。組織を壊滅させるのはその後にしましょう」
『汝が人命を優先するとは……どういう風の吹き回しだ』
「報酬額に見合った仕事をするまでですよ。今回は完全無欠の結果を約束します」
『リゼンに加えて吾もついているのじゃ。安心して待っているがよい』
『汝に期待はしていない。どうせ持ち出されただけで、まだ一度も使われていないだろう?』
『ぐ、ぬぅ……痛いところを指摘しておって』
ナイアは悔しげに唸る。
私はただ微笑するのみで、自前の剣を鞘に戻した。
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