第48話 奇妙な遺産
過去の勇者の遺産を見て回る。
ざっと確認できるだけでも相当な量だ。
さらに質も一級である。
仮にすべてを売り払ったとしたら、途方もない金額になるだろう。
そのような場所に私は立っている。
肝心な問題は、遺産の中からどれを貰うかという点だ。
報酬額の調整はそれほど難しくない。
(興味のある品があれば良いのですが……)
そのうち一本の剣に目が留まる。
澄んでいるのに禍々しい。
そんな矛盾した印象を受ける剣だった。
私は足を止めて注視する。
(この気配は、まさか……)
訝しんでいると、脳内に重苦しい声が反響する。
それは明確な思念だった。
『――よくぞ来た、新たな勇者よ』
「どなたでしょう?」
『吾の名は崩剣ナイア。偉大なる深淵の刃なのじゃ』
思念は目の前の剣から飛んできている。
崩剣とは聞いたことのない名称だ。
それにしても、感じられる力の気配が尋常でない。
人格を持つ剣と言えばシアレスを真っ先に連想するが、あれと同格なのではないか。
一方で私は、さっそく厄介事の予感を察知していた。
ゆっくりと後ろに下がりつつ、崩剣に断りを入れる。
「また喋る剣ですか。もう間に合っているのですが」
『無礼者! 吾を愚弄するのかっ』
崩剣ナイアが激怒した。
別に悪気はなかったのだが、一応は謝罪しておく。
「言葉が過ぎました。申し訳ありません」
『分かれば良い。吾は寛容じゃからな』
「いやはや、助かります」
私は頭を下げる。
本心では、ナイアに対して煩わしさを感じ始めていた。
(やり取りするのも面倒です。手頃な遺産を貰って退散しますか)
早々に判断した私は無言で踵を返した。
ところが、ナイアが慌てて止めにかかってくる。
『待て、勇者よ! 吾を忘れておるぞ。そのために来たのであろう。ほら、遠慮せず持つがよい』
「結構です。先を急いでいますので。あと私は勇者ではありません」
『なんだと!? では何者なのじゃッ! まさか盗人か? 恥を知れ! 吾が成敗してくれるわッ!』
直後にナイアが実体化した。
靄のような身体で崩剣を構えてみせる。
どこか勝ち誇った様子でナイアは豪語する。
『ふははははははぁ! 吾は無数の武技を極めておる。盗人に見せるのは勿体ないが、此度は特別に――』
「前置きが長すぎますね」
私は吐き捨てながら瞬時に前進し、刺突で崩剣を弾き飛ばした。
無手となったナイアは、呆然として凍り付く。
『……は?』
「これは契約の範囲外です。任務のための一太刀ではないので、まあ問題ないでしょう」
私は冷徹な眼差しのまま、ナイアの首筋に刃を突き付けた。




