第47話 遺産の正体
祠の階段の先には、石造りの広い空間があった。
小型の竜なら収納できそうな大きさだ。
天井に等間隔で結晶がはめ込まれており、それらが淡い光を落としている。
室内は薄暗いが、足元が見えないほどではない。
(空気の質感が妙ですね)
私は手を伸ばしながら考察する。
何らかの魔術が作用して、空間内の遺産が劣化しないようにしていた。
半永久的に機能する魔術は珍しい。
よほど高位の術者が発動したのだろう。
シアレスから詳しい話は聞いていないが、おそらくは過去の勇者の仲間だと思われる。
階段から少し離れた場所に、件の財宝が整然と並べられていた。
山積みになったのは様々な硬貨だ。
魔術的な硬貨を持つ装飾品等も所狭しと溢れ返っている。
他にも稀少な植物や宝石、文献、魔術書も保管されていた。
あまりにも数が多く、いちいち確認するのは骨が折れるほどだ。
私だけでは数日を費やしてもまだ足りないだろう。
(素晴らしい。さすがは勇者の遺産ですね)
私は素直に感心する。
これほど膨大だとは思わなかった。
国に献上せず、個人で所有していたのも頷ける。
遺産を巡って争いが起こりかねないからだ。
軽々と扱えない以上、人目に付かない場所に封じ込むしかない。
そうして選ばれたのがこの祠というわけである。
唯一、場所を知らされていたシアレスだけが存在を認識していたのだ。
(これほどの遺産となると、私も攻撃し放題ですね)
もはや金貨での換算が困難なほどである。
今回の依頼どころか、世界だって滅ぼせるだろう。
シアレスと細かい取り決めを行ったわけではないが、さすがにこれらすべてを受け取るのは憚られる。
私は正当な対価を要求する主義なのだ。
一太刀が金貨一枚であると定めたのだから、余剰が多すぎる事態は避けたい。
安定して依頼をこなせる攻撃回数はおよそ百回だ。
不測の事態を考えた場合、三百回もあれば問題ない。
五百回もあれば、無駄遣いしてもお釣りが出る。
ただし、ここで遠慮して報酬額が低くなり、後々になって不足するのは絶対にいけない。
そうなると、高価な遺産を一つだけ貰うくらいが適切なのではないか。
持ち運びにも困らず、攻撃回数の制限も厳しくないので、私も張り切って戦うことができる。
報酬設定の指針が決まった私は、嬉々として過去の勇者の遺産を漁り始めた。




