第41話 意志なき刃
宿を出た私は街の外れに到着する。
現在は乗合馬車がないので、旅は徒歩での移動になる。
労働力は復興作業に割かれているのだ。
まあ、人目に付かないのでちょうどいい。
どうせ急ぐ旅でもないのだから。
街道に沿って立ち去ろうとした時、背後から声がかかった。
「おい、待て」
振り返るとそこには勇者がいた。
彼は真剣な顔をしている。
いつものような敵意は感じられない。
不機嫌そうな表情だが、間違いなく理性的だった。
私は微笑を浮かべながら尋ねる。
「何か用ですか」
「話がある」
「私は何もありませんがね」
「黙れ。こっちの問題だ」
勇者が有無を言わさず近付いてくる。
斬りかかってくる展開を想定したが、やはりそのような気配は感じられない。
もし全力で攻撃されたとしても素手で対処できるので、無防備に立って待った。
勇者は私の前で足を止めると、言いづらそうにしつつ疑問を発する。
「なぜ俺達を助けた」
「無益な関心の目を集めてもらうためです。政治の道具にはなりたくないので」
「あんたならもっと上手くやれるはずだ。わざわざ俺達を使う意味がない」
勇者が鋭い指摘を返してくる。
どこか確信を抱いた口ぶりだった。
その発言に私は感心する。
(意外と考えているのですね)
彼なりに周りが見えているらしい。
いや、今回の出来事をきっかけに成長したのかもしれない。
とにかく、そこは反論できない部分であった。
だから話題をはぐらかしていく。
「私の動機を知ってどうするつもりですか」
「何もない。ただの興味だ」
「ふむ。では黙秘しましょう。説明の義務も義理もありませんからね」
そう言って私は話を打ち切ると、歩き出そうとした。
背中を見せたところで、勇者はそれほど大きくない声で言う。
「――聖剣の声を聞いた。シアレスだってな」
「ほう」
私は小さな驚きを覚えた。
そして拍手を送る。
「素晴らしい。由緒正しき武器と心を通わせたのですね」
「ふざけんなよ。あんたも話していただろ。シアレスからも事情は聞いている」
「おっと、そうでしたか」
思い出したように手を打つと、勇者はまた舌打ちをする。
迂遠な会話が嫌いらしい。
もちろん私も分かってやっている。
深呼吸で気持ちを落ち着けた勇者は、気を取り直して確認する。
「剣聖リゼン。あんたは魔王を殺して世界を救った。この偉業に個人の意志はないんだな」
「ええ、一切ありませんよ。私は契約に従って動く刃です」
私は胸に手を当てて断言する。
勇者は複雑な胸中を窺わせる表情で唇を噛んだ。




