第39話 戦後処理
私は気絶した勇者――否、彼の持つ聖剣シアレスのもとに向かう。
そして優雅な動作で一礼してみせた。
「いかがでしょう、私の技は」
『微塵も参考にならないのだがっ!? どうやって模倣すればいいというのだ!』
「簡単ですよ。仕組みは単純ですから」
『技の難度を分かっていながら言っているだろうっ?』
シアレスが大げさに反論してきた。
妙に勢い付いているのは、それほど衝撃的な剣術だったからだろう。
確かに私が披露した技は、剣士に要求される技能を逸脱している。
どちらかと言えば魔術師寄りだ。
それを無理やり剣の規格で行ったような形である。
とは言え、体系的な詠唱や知識を求めれる魔術と異なり、私が扱う技はいずれも原始的だった。
身体と魔力の操作さえ極めれば、誰でも再現が可能である。
随分と易しい剣術と言えよう。
私はシアレスの前で屈むと、少し眉を下げて頼む。
「さて、私はもう攻撃できません。残党狩りを手伝ってくれませんか」
『不可能だ。化身としての降臨は、使い手の力を消費する。エルフの森のような場所ならばその制約もないが、ここでは自力での行動が難しい』
「そんな縛りがあったのですね」
私と対決した時、シアレスは靄のような身体を使っていた。
あれは本来、使い手の力を糧に発動する類らしい。
エルフの森で制約が無いのは、おそらく魔力や精霊の力が濃い地域だからだろう。
基本的には使い手との協力が必須なのだ。
ところが肝心の使い手である勇者は気絶している。
とても化身降臨を手伝える状態ではなかった。
「仕方ありません。他の方々に頼みましょうかね」
『その前にこの男を避難させてほしい。このまま放っておけない』
「おや。情が湧きましたか」
『違う! 勇者の血統を途絶えさせないためだ。汝のことはまだ諦めていないが、現勇者を蔑ろにする気もない』
意外と律儀なシアレスに感心しつつ、私は勇者を担ぎ上げた。
ついでに聖剣を片手に持って移動する。
『汝はこれからどうするつもりなのだ?』
「新たな契約を求めて旅をします。世界も当分は平和でしょうし」
『いや、分からぬぞ。追い込まれた魔族勢力から覚醒個体が現れるかもしれない』
「その時はまた殺せばいいだけです。まあ、契約がなければ動きませんが」
『汝は本当に一貫しているな……』
シアレスが呆れたように言う。
しかし、それが私の生き甲斐なのだ。
誰に何と言われようと止めるつもりはなかった。