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第37話 剣聖の一太刀

 勇者は空中でゆっくりと回転しながら飛び、押し寄せる魔族の眼前で聖剣の力を解放させた。

 刹那、聖なる光が濁流のように溢れ返り、魔族達を一気に浄化していく。

 先ほどまで勇者が放っていた斬撃の比ではない。

 これが聖剣の真の力なのだった。


 圧倒的な力は街全体へと波及し、弱い魔族や魔物はそれだけで昏倒する。

 後方の勇者パーティーも、態勢の崩れた魔族達を一方的に倒していた。

 このまま人間側が押し込む形で終わりそうだった。


「ふむ、壮観ですね」


 一部始終を見ていた私は感心する。

 思ったより凄まじい効果だったので驚いた。

 やはり聖剣は世界最高峰の魔術武器なのだった。


 どこからともなくシアレスの思念が飛んでくる。


『やはり凄まじい力だ……! まさしく聖剣の担い手に相応しい! 剣聖リゼン、汝は真の天才だっ』


「それは光栄ですね。努力の甲斐がありました」


『この男はもう捨てる! 今すぐに我を手に取るのだ!』


「固辞します」


 そんな風にやり取りをしていると、死屍累々となった魔族の只中から勇者が現れた。

 彼は地面を這いずりながらこちらに近付いてくる。

 血と土で汚れた彼は、瀕死ながらも生きていた。


「くそ、が……畜生、め……」


「よく生きてますね。私の魔力を肉体保護に回しましたか。咄嗟にしては上出来の対応です」


 勇者の生存能力を認めた私は、シアレスを説得する。


「彼もそれなりに頑張っていますよ。潜在能力で言えば勇者の素質はあるのでは?」


『しかし、人格が伴わないのでは失格なのだ……強さだけで勇者は名乗れない』


「その理論でいくと、私が最も不適任ですがね」


『ぬぅ……』


 シアレスは唸る。

 反論の言葉が見つからずに困っているのだろう。


 その時、勇者が顔を上げた。

 彼は憤怒に染まった顔で瀕死の魔族達を指差す。


「さっさと、奴らを殺せ! いつまでチンタラしてやがるつもりだッ。ここからが、あんたの役目だろうがァ!」


「頼ってくださるのですね。それは嬉しい限りです」


「チッ、ゴミ野郎、が……」


 言い終えた勇者は力尽きて倒れる。

 死んでいない。

 ただ気を失っただけである。

 さすがに今の一撃で体力を持っていかれたのだろう。


 私は勇者の尽力を讃える。

 するとシアレスが私に尋ねてきた。


『汝は勇者の成長を促しているのか?』


「さあどうでしょう。私の目的は契約だけです」


 そう言いながら自前の剣を頭上に掲げる。

 勇者の捨て身の攻撃を受けた魔族本隊は、まだ三割ほどが生きていた。

 しかし、聖なる光にやられて動きが鈍っている。

 追撃を与えるなら今だろう。


「とっておきの技です。よければ勇者殿に教えてあげてください」


『……承知した』


 シアレスの言葉を聞いた私は、手先から己の魔力を放出した。

 無数の糸のように伸ばしたそれらを、剣へと丁寧に巻き付けていく。

 魔力の光に包まれた刃は、聖剣とは異なる輝きを帯びている。


「一太刀につき金貨一枚」


 呟いた私は、袈裟懸けに剣を閃かせた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「チッ、ゴミ野郎、が……」 >>>お前はクズ野郎だがな(笑)。
[良い点] 何だか聖剣シアレスが、孫の出来の悪さを嘆くおじいちゃんみたいに見えてきた。w [一言] 続きも楽しみにしています!
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