第36話 協力プレー
欠伸をしながら待機していると、脳内に誰か思念のようなものが反響する。
その声は聖剣シアレスのものだった。
シアレスは懸命な口調で訴えかけてくる。
『剣聖リゼン! 我が力を解放するのだ。汝こそ真の担い手に相応しい!』
「嫌です。あなたを握っているのは勇者ですよ」
『この男では駄目なのだ。やたらと傲慢なだけで実力が伴っていない。我が力を貸すに値しない勇者なのだっ!』
「それを正すのがあなたの役目では?」
『できるのならばそうしている! この男の自惚れが常軌を逸しているのだっ』
シアレスが必死に主張する。
なんとも正論を突いているので反論しづらい。
前方で戦う勇者には人格的に欠陥がある。
確かに秘めたる才能は持っているが、それを活かせるだけの精神性に恵まれていないのだった。
だからこそシアレスは私を希望している。
どう反論しようか悩んでいると、魔族の猛攻を突破した勇者が突っ込んできた。
彼は精彩に欠けた斬撃を叩き込んでくる。
「リゼンッ、この野郎! あんたのせいで……ッ!」
憎悪に駆られた顔は、とても肩書きに相応しいとは思えない。
私もシアレスと同じ意見なのが辛いところだった。
幾多もの斬撃を受け流しながら私はぼやく。
「勇者の血統とやらも落ちぶれたものですね。これでは英雄なんて名乗れませんよ」
『己の立場と宿命に驕っているのだろう。一族の恥さらしには違いないな。汝を起点に血統をやり直したいところだ』
「お断りしますよ。私のような守銭奴が勇者などおこがましい」
私が首を振って自虐すると、勇者が横薙ぎに聖剣を振るった。
それを片手の指で挟んで止める。
勇者はますます苛立った調子で振り払ってきた。
「おい、何勝手に喋ってやがる! あんたの相手はこの俺だァ!」
「いや魔族に集中してくださいよ」
私は冷ややかに返しながら飛び退く。
すると掠めるように魔術が地面に炸裂した。
勇者を追いかけてきた魔族が攻撃してきたのだ。
彼らは私達が仲間割れしていると判断し、これを好機と見て術を放ってきた。
私は迫る勇者と魔族を前に嘆息する。
(世話が焼けますね。不本意ではありますが、ここは援護しておきますか)
決心した私は一瞬で勇者の前に跳び、彼が反応をする前に腕と首を掴んで拘束した。
そして最低限の指示を出す。
「私の魔力を流します。上手く聖剣に伝えてくださいね」
「はぁっ!?」
理解していない様子の勇者を持ち上げると、己の魔力を伝達していった。
いきなり極度の負荷がかかった勇者は白目を剥いて吐血する。
「ゴボァヒァッ!」
それでも私は遠慮せずに魔力を流していく。
本能的な逃避行動なのか、勇者が魔力を聖剣に伝わっていく。
刃に極光が宿って辺りを照らし上げた。
それを見た私は、怯む魔族達に向けて勇者を投げ付けた。