第33話 剣聖の作戦
私は剣を鞘に戻すと、勇者の消えた方角へと歩いていく。
その際、賢者と他の仲間達に指示を送る。
「勇者殿は私が援護しましょう。皆さんは取り巻きの処理をお願いします」
「分かった。くれぐれもあいつを死なせないでくれ。性格は悪いが勇者なんだ」
「お任せください」
私は頷きながら駆け足になった。
別に勇者が死のうと関係ないが、見殺しにするほど嫌いなわけではなかった。
契約破棄は別に珍しくないことだ。
支払い能力のない人間から距離を置くのは当然の処置である。
それで恨みを抱くほど器は小さくない。
頭上から降り注ぐ魔族の攻撃を躱しながら移動する。
彼らから不用意に接近してくることはなかった。
こちらが剣士であることを理解し、間合いの範囲外から安全に潰そうとしている。
もっとも、私の剣技ならば遠距離だろうと問答無用で葬り去れるので、彼らのそれは無駄な配慮だった。
攻撃回数が五回もあれば、とっくに殲滅させていただろう。
(まあ、こればかりは仕方ありません。金貨一枚相当であると決めたのは私ですから)
あの少女の心意気は称賛すべきだが、過剰な評価を下すことはしない。
公平な心を以て判断しなければいけない部分だ。
そして、契約を結んだからには徹底して遂行するのが私の役目である。
どんなものでも利用し尽くして成功させるつもりだった。
私は背後を振り返って勇者パーティーを確認する。
彼らは迫りくる魔族と対決していた。
上手く陽動として作用している。
それなりの連携で防戦を意識しつつ、着々と敵対勢力を削っていた。
(彼らならば紙一重で勝利できるでしょう。運が悪ければ犠牲が出ますが)
問題は勇者だ。
今も魔族本隊の猛攻を受けている。
魔力感知で位置は把握しているものの、着々と追い詰められていた。
本来、彼単独では太刀打ちできない戦力だ。
むしろよく生き残っていると言えよう。
死を掻い潜って意地汚く進む精神は、英雄の資質と言えるかもしれない。
とは言え、さすがに限界だろう。
ここは私が救助しなければならない。
魔族側も、剣聖リゼンの加勢は無視できないはずだ。
私が魔王を殺害したことを知っている可能性も十分にある。
そういった威光を牽制に使いつつ、勇者の剣技で魔族を屠っていく。
仕上げは私の一太刀だ。
魔族本隊を壊滅させれば、向こうの士気は激減する。
あとは勇者パーティーに任せても勝利できるはずだった。