第31話 強者の責務
冷淡な心境のまま、私は勇者に言い聞かせる。
「力を持つ者に無償の善行を強いる。これほど傲慢な話はありません。然るべき対価すら払えない弱者は、そのまま葬られてしまえばいいと思いますよ」
「ハッ、それが本音か。どこまでも外道だな。剣聖の名を捨てろ。やはりあんたには似合わない」
「どうしましょう。今後の宣伝活動に使おうと思っていたのですがね」
「黙れ……どこまでもふざけやがってッ!」
勇者が食ってかかってきたので防御する。
本気で攻撃してきているのは明らかだった。
それだけ私のことを憎み、殺したいと考えているのだ。
根源的な感情は読めている。
勇者は私に嫉妬し、一向に追い付けない劣等感に苛まれていた。
血統的な宿命と肩書きという重荷を背負わされて、ただでさえ参っているのだろう。
そこに不条理な力を持つ剣聖が現れた。
剣聖は英雄らしさを持たないにも関わらず、超絶的な剣術ですべてを葬り去る。
憧れを感じるだろうが、それ以上の妬みが沸き上がっているはずだ。
(まったく、困りましたね。聞く耳すら持ちませんか)
仲間達も大変だ。
こんなリーダーでは人望がない。
あまりにも感情的すぎる上に、同行しているだけで危険に晒されてしまう。
(シアレスも黙ったままですね。今代には語る価値もありませんか)
乱雑に扱われる聖剣は何も言わない。
ただよく切れるだけの剣と化していた。
きっと勇者はシアレスいう人格にも気付いていない。
本来の担い手なのに、未熟なせいで認められていないのだ。
なんとも情けないと思うが、こちらがそれを言えば怒りを増すだけだろう。
そんな折、彼方から強大な魔力反応が接近してきた。
いち早く察知した賢者が顔色を変える。
「来たぞ! 魔族の本隊だ!」
きっと街を襲撃した魔族の主戦力だ。
我々を包囲したと情報を受けてやってきたのだろう。
現れた魔族の本隊は数十体はいた。
なかなかの規模だ。
さらに個体によっては一騎当千に等しい力を有している。
かつての魔王軍の幹部に食い込みそうな者も混ざっていた。
「さて、そろそろ出番ですね」
私は勇者の斬撃を躱しながら、彼の首根っこを掴む。
そして、困惑する彼を持ち上げた。
「おい、何を――っ!?」
「ちょっと先鋒をお願いします」
私はそう言いながら勇者を投擲する。
絶叫する勇者は、猛速で魔族の本隊へと飛んでいくのだった。




