第30話 愚者の行動
私達は街の閑散とした区域に到着した。
どことなく寂れた雰囲気は、大通りからやや離れているせいだろう。
既に被害を受けたのか、あちこちが破損している。
もしかすると火事場泥棒でも出たのかもしれない。
魔族達も地上や空中を経由して追跡してきた。
数と機動力でこちらを包囲するつもりらしかった。
おびき出されたことは自覚しているはずだが、どうでもいいのだろう。
彼らにとっては手柄がすべてだ。
魔王の死を迎えた時代で、新たなる覇者になるための功績を求めている。
我々の命はまさに最適の勲章なのだった。
数の利に任せれば圧殺できると考えている。
私はその場で立ち止まると、両手を広げて微笑した。
「この辺りでよさそうですね。存分に戦えますよ」
地理的に住民を巻き込むことはない。
ただし、私の場合は制御が必要だろう。
特に斬撃の角度には注意しなければならなかった。
その時、賢者が近付いて耳打ちをしてくる。
「何か策はあるのか?」
「私が援護するので、皆さんはひたすら魔族を叩いてください。数が少なくなったら私が一掃します」
「……最初から全力では挑めないんだな」
「はい、金貨一枚分の契約ですので」
私はにこやかに応じる。
すると、勇者が蔑みの感情を隠さずに呟いた。
「あんたは最悪だ。人の善意を金で踏み躙りやがる」
「文句があるなら契約を切ればいいのですよ。あなただって実践したじゃないですか」
「この野郎……ッ」
「怒るのですか。ご自由にどうぞ。私にとっては何の障害にもなりませんからね」
そう答えた瞬間、勇者が斬りかかってきた。
私は表情を変えずに防御する。
こちらの攻防を見て、慌てて賢者が止めに入ってきた。
「おい、やめろ!」
それでも勇者は追撃を仕掛けてくる。
力任せな攻撃を何度も叩き付けてきた。
それらを捌く私は、ふと魔族達を見やる。
彼らは愉快そうに見物していた。
仲間割れを好機とせず、娯楽として捉えたようだ。
既に勝った気でいるのだろう。
(誰も彼もが愚かですね)
私は小さく嘆息し、勇者の斬撃を受け流した。
つんのめった勇者は転倒する。
魔族側から笑いと拍手が沸き上がった。
それに顔を真っ赤にした勇者が飛び出そうとしたので、寸前で手を出して制した。
震える彼は、割れんばかりに歯を食い縛っていた。
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