第29話 賢者の吐露
勇者パーティーと私は、魔族の猛攻を防ぎながら移動する。
目指す先は街の南部だった。
魔力感知によると、その付近には住民がほとんどいない。
つまり二次被害が最も出ない場所なのだ。
敵対戦力の殲滅を狙うならばそこしかない。
道中、勇者パーティーは魔族への挑発と牽制を繰り返す。
そうして攻撃を自分達に集めているのだ。
飛んでくる術は私が防御する。
契約の関係で攻撃はできないものの、こういった形なら貢献できる。
私の一太刀は切り札だ。
まだこの場で放つべきではない。
それまでは勇者パーティーに踏ん張ってもらうつもりだった。
彼らも必死で移動に専念している。
遠くの魔族に火球を飛ばしつつ、賢者が私に話しかけてきた。
「なあ、リゼン。やはり俺達が間違っていた。この戦いが終わったら――」
「パーティーに戻ってきてほしい。そう言いたいのですね?」
「そうだ。あれから痛感した。剣聖リゼンの力が必要だ。今のままではやっていけない」
賢者の顔は反省を色濃く見せていた。
それは素直な後悔だった。
詳しくは知らないが、私の脱退後に色々と苦労したのだろう。
全滅しかねない事態でもあったのかもしれない。
だからこそ私を引き戻そうとしている。
しかし、その誘いを素直に受け取る義理もなかった。
さすがにそこまで優しくもない。
飛来した雷撃を受け流しながら、私は冷静に指摘する。
「心配せずとも魔王は死にました。あなた達の役目は功績を享受するだけでは?」
「いや、今後も英雄として様々な戦いに駆り出されるはずだ。実力不足の俺達ではいずれ失敗する。そもそも俺は、魔王討伐の功績を預かることに反対だ。過剰な評価は身を滅ぼしかねない」
「心配性ですねぇ。考えなしに特権階級になってもいいのですよ。失敗や破滅なんて起きてから悔いればいいのです」
私は苦笑交じりに述べた。
すると賢者は、沈痛な面持ちで語る。
「俺はもう、分かったんだ。自分の弱さと愚かさを認めねばならない。リゼン、お前を追放したのは過ちだった。すべて俺達が悪いんだ」
賢者は頭を下げる。
ずっと言いたかったのだろう。
彼の背負っていた雰囲気が幾分か軽くなったように思えた。
だから私は、賢者の前で堂々と返答する。
「いや、謝罪なんて不要です。私が要求するのは契約だけですので」
「は、ははは……相変わらずだな」
「正当な成果と対価を提示しているだけですよ」
呆れ返る賢者に、私は飄々と返すのであった。




