第28話 決断
頭上から魔族が術の雨を降らしてきた。
勇者パーティーはそれぞれの手段で防御する。
私も剣で遮って凌いだ。
後方では傭兵達の一部に被害が出ている。
彼らの力量では魔術の爆撃を防ぎ切れないらしい。
既に魔力切れを起こした術者が倒れていた。
もはや迷っている暇はない。
今すぐに決断を下さねばならない。
ところが勇者は私の胸を押すと、地面を睨みながら言う。
「じゃあ、あんたが皆殺しにしてこいよ。最強の剣聖様ならできるだろ」
「それが難しいので困っています。契約の都合で一度しか攻撃できないので、魔族の殲滅が困難なのです。街や住民の被害を度外視すれば簡単なのですがね」
私は肩をすくめて答える。
この近辺に集結しているとはいえ、魔族の群れを一太刀で殺し切るのは困難だ。
強行すればどうしても二次被害を出してしまうことになる。
今回の契約だと街を救うことも仕事に含まれているため、さすがに崩壊させては駄目だろう。
それでは少女の素晴らしい決断を踏み躙ることになる。
だから勇者パーティーの力が必須なのだ。
「さあ、どうしますか。早く決めてください」
私は勇者に迫る。
勇者は苦悩に追われるばかりで口を開かない。
脂汗を垂らして葛藤しているのは、己のプライドを傷付けないためだろう。
軽蔑の念を覚えざるを得ないが、それを顔に出すことはない。
そうして沈黙が続くこと暫し。
発言したのは賢者だった。
彼は私の前に立って早口で回答を述べる。
「すまん。協力させてくれ。ここはお前の力が必要だ」
「おい! 勝手に何言ってんだッ!?」
「状況を見ろ! 街は魔族に侵略されている。私情を挟んでいては被害が増えるばかりだッ」
勇者と賢者が言い争うも、どちらが正しいかは明白だった。
私は聞こえない程度の大きさでため息を洩らす。
(賢者はよく考えていますね。戦場を数値化して俯瞰できている)
この場において優先すべきは自分の立場ではない。
本当に勇者であるのならば、すべてを投げ打ってでも民衆を救うべきだろう。
それこそが真の英雄だと思う。
絶対に名乗れない私だからこそ、その定義はよく分かる。
「他の皆さんの意見も聞きたいですね。どうでしょう、協力しませんか?」
私はパーティーの面々に尋ねる。
しかし、誰も何も言わない。
反抗しているのではない。
これ以上は無理な戦いをしたくないのだ。
つまり無言の賛成だった。
「さて、勇者殿。あとはあなたの判断次第ですよ」
「……ッ」
勇者は怒りに染まった顔で震える。
今にも斬りかかってきそうだが、寸前で殺気を霧散させた。
彼は呼吸を荒げながら呟く。
「俺達は魔族を全滅させる。あんたは勝手にしろ」
「承知しました。勝手にさせていただきますね」
私は微笑を湛えて頷いた。