第27話 協力戦線
私は混乱する街中を散策する。
逃げ惑う人々の間を縫うように移動した。
魔力による感知で、既に行き先は定まっていた。
(契約遂行には彼らの協力が不可欠ですね)
そうして辿り着いたのは街の中央部だ。
教会の前にはたくさんの冒険者が集って魔族と攻防を繰り広げている。
最前線には見覚えのある顔ぶれがあった。
すなわち勇者パーティーである。
私は攻防が一旦の膠着状態に陥ったのを見計らって話しかける。
「どうもこんばんは。今宵は騒がしいですね」
「リゼン! 何をしに来た!?」
いち早く反応したのは勇者だ。
まるで敵を見つけたと言わんばかりに血走った目で睨んでくるも、それを受け流して話を続ける。
「実は皆様に一つ提案があるのです。私と一緒に魔族を倒しませんか。ここは街の人々のために手を組みましょう」
ここで勇者が掴みかかってきた。
彼にとってはよほど我慢ならない言葉だったらしい。
勇者は殺気を隠さずに吼える。
「ふざけんなッ! 誰があんたなんかと……!」
「おや。意地を張っている場合ですか。随分と苦戦していますが」
私は冷静に指摘する。
勇者パーティーは消耗している。
他の冒険者達も同様だ。
魔族の戦力が圧倒的に優勢だった。
現在はなんとか持ちこたえているが、決壊するのは時間の問題だろう。
私は勇者の持つ聖剣に注目する。
力が封じられていた。
本来の性能の十分の一も引き出せていない状態だった。
(シアレスが力を貸していないようですね。聖剣の使い手として認められませんか)
きっと勇者の人柄と実力に幻滅したのだ。
既に彼を見限っており、助ける気も起きなくなってしまったに違いない。
確かに勇者は年齢にしては精神的に幼く、英雄と呼べるような信念の持ち主ではない。
しかし、仮にも伝説の勇者の血統なのだ。
助けてやってもいいと思うのだが、シアレスにそのつもりはないらしい。
その時、パーティーの参謀役である賢者が発言した。
「リゼン。生憎とお前を雇う金がない。協力したくてもできないんだ」
「そこはお気になさらず。今の私は契約で動いています。皆様との協力で対価を要求することはありません」
「本当か!?」
「ええ、嘘は言いません。素晴らしい契約を交わせて上機嫌ですよ」
私がそう言うと、彼らは怪訝そうに顔を見合わせた。
守銭奴の私が嬉しそうにしているのが珍しいのだろう。
少なくとも彼らに対して向けたことのない態度であった。
勇者は歯ぎしりしながら聖剣を握り締めている。




