第21話 今代勇者
数日後、私は勇者のいる街に到着した。
彼らパーティーは有名なので、目撃情報を辿ればすぐに居場所を突き止められる。
もし私が魔族なら、この時点で暗殺が可能だろう。
今まで魔王軍からあまり襲われてこなかったのは、戦力的に軽視されていたからに違いない。
その判断もあながち間違っていないので、なんとも物悲しい話であった。
街中を歩いていると、シアレスが上機嫌に喋り出す。
『汝が譲渡を決めるほどだ。今代勇者はさぞ腕の立つ剣士なのだろうな。実に楽しみだ』
「え? 彼は二流か三流といったところですよ」
『どういうことだッ! 聖剣の使い手に相応しいのではなかったのか!?』
シアレスが狼狽している。
そういえば、肝心の勇者については話題にしていなかった。
期待を裏切る情報を聞いて驚いているようだ。
「彼が勇者だから聖剣を渡すのですよ。最初に会った時、血統を判断材料に使ったのはあなたですよ、シアレス」
『ぐぬ……しかし、実力が伴わぬのでは論外だ。やはり汝の手にあるべきだと思うぞ。この際、血統などは二の次でいい』
「強情ですねぇ。主張が二転三転するのは感心しませんよ」
私は肩をすくめて苦笑する。
その上で優しく諭すように告げた。
「どんな勇者だって弱い時期があるものです。あなたが良き師となって道を示すべきではないでしょうか。そうすれば新たな剣技だって生み出せるはずです」
シアレスは歴代勇者の技を再現できる。
寿命の概念はなく、理屈上は無限に強くなれるのだ。
つまり今代勇者が成長すれば、いずれシアレスの力になるかもしれない。
そう考えると、決して悪い話ではないのだ。
魔王が死んだ時代で聖剣がすべきことは、培った知恵と技術で育成することだと思う。
私の説明を一通り聞いたシアレスは、沈黙を経てひとまずの意見を述べる。
『……まずは今代の顔を見る。最終的な判断はその後だ』
「いやはや、考えが柔軟で助かります」
『勘違いするな。我はまだ誰の使い手になるか決めていないぞ』
シアレスはすぐさま断言した。
やはり強情な聖剣である。
しかし、主張に揺らぎが感じ取れた。
私の説得が多少なりとも通じたようだ。
正直なことを言えば、シアレスによる勇者の育成など興味がない。
こちらの希望を叶えるための方便に過ぎなかった。
それでも誰に迷惑がかかるわけでもないのだ。
本音は胸に内に秘めておけばいいだろう。