第20話 聖剣の行方
私の宣言を聞いたシアレスは少し沈黙する。
やがて我に返ったのか、勢い付いて反応した。
『なぜだ!? 我の何が不満なのだッ』
「急に大声を出さないでください。どうしたのですか」
『汝は我に力を示し、さらには魔王すらも討滅した。確かに勇者の血統ではないが、我を扱う資格は十二分にあると言えよう』
「私に聖剣は不要です。武器は既にありますから」
そう言って聖剣とは反対側に吊るした剣を指し示す。
直近の魔王戦でも活躍した私の武器だ。
ちなみにここまで私は聖剣を一度も使っていない。
飾りと化して腰に装備しているだけだ。
それがよほど不満らしきシアレスは、厳しい口調で指摘する。
『どこにでも売られている安物だ。魔術武器ですらない。戦士ならば実力に見合った剣を選ぶべきだ』
「武器にこだわらないのが私のこだわりです」
『汝に相応しいのは聖剣だ。今代勇者と面識はないが、これだけは断言できる』
シアレスはそこを何度も強調する。
それからも延々と説教されたが、ようするに技量に見合った武器を使えとのことだった。
私の場合は聖剣が該当するらしい。
不釣り合いな安物で戦う姿は、シアレスからすると耐えられない光景なのだという。
なんとも面倒臭い化身であった。
自分が敗北したことがよほど印象に残っているのだ。
まさか歴代勇者の技が通用しないとは思わなかったらしい。
だからこそこれだけ強く主張してくるのだろうが、私からすればかなり鬱陶しかった。
(聖剣なんて代物に頼れば、いずれ堕落していく。大きな力を手にしたことで、却って本来の実力が陰ってしまうのだ)
便利なこと自体を否定はしない。
しかし、他力本願で得た力など碌なものではないだろう。
使い手の鍛練にはならない。
何より高性能な武器に頼るのはつまらなかった。
強すぎる剣はどうにも無粋なのだ。
最適解を求めつつ、その過程もまとめて満喫する。
そういった形が一番なのではないかと私は思う。
したがって私はシアレスの意見に従う気はなかった。
何を言われても聖剣は今代勇者に譲渡する。
彼が正式な使い手だ。
聖剣と勇者は一心同体だと聞いたことがある。
つまり私のような素性不明の剣士より適任だろう。
「実際に勇者本人と会ってみたら意気投合するかもしれませんよ。まあ、気に入らなかったとしても渡すつもりですが」
『……汝は強情なのだな』
「気遣い上手と言ってください」
私は皮肉を返しながら微笑む。
シアレスは大げさにため息を洩らすのであった。