表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/122

第18話 武才の極致

 接近する私を前に、魔王の目に驚きの色が覗く。

 まさか止まらずに直進してくるとは思わなかったのだろう。


 罠の白炎は上位魔術の一種だ。

 人間の術師が集団で構築する規模である。

 それを絶好の場面で発動させたのだ。

 易々と突破されるのは想定外だったに違いない。


「小童がァ……ッ! 我を舐めるな!」


 魔王が慌てて魔術を連打する。


 正面から高熱の突風が吹いてきた。

 背後から氷球が迫る。

 横からは腐蝕性の瘴気が雪崩れ込んできた。

 頭上からは毒の雨が降り注ぐ。

 足元からは束縛特化の蔦が生えた。


 全方位を網羅した魔術攻撃の嵐であった。


(豪勢ですね。それほどまでに私を恐れますか)


 魔王は必死に魔力を練り上げている。

 その姿に憐みを覚える。


 世界の支配という壮大な野望を持ち、相応しいだけの実力を有している。

 条件が揃えば、間違いなく実現可能だろう。

 それだというのに、魔王は宿敵ですらない人間に殺される定めにある。


 私は軽く跳躍すると、迫り来る魔術のすべてを五感で捕捉した。

 そして剣で切り払う。


 最低限の動きから最速で振るう。

 弾いた術が別の術に当たって相殺し、命中しない分は無視する。

 私はただの一つも傷を受けることなく突破して、魔王の前まで辿り着いた。


「あなたは素晴らしい術師ですね。これほどの力は世界を巡ってもそう見つからないでしょう」


「剣一本で凌いでおきながら、よくもそのようなことを言えるものだな……」


「実力差は仕方ないですよ。その上で称賛しているのです」


 私は淡々と事実を述べる。

 すると魔王は、鼻を鳴らして魔力を放出させた。

 どす黒い力が両手に集束して剣に形に変わっていく。


 堂々とした構えを見るに、魔王は剣術も嗜んでいたらしい。

 それも一級の技量だ。

 竜の魔王の本質は魔術剣士だったのである。


「闇の秘宝を得た我が力は、この程度では終わらぬぞ。真の破滅を見せてやろう……!」


「いえ、結構です」


 私が首を振って断ると、魔王が凍り付いた。

 その後、大きく笑いながら激しい怒りを滾らせる。

 今までで最も強烈な怒りだった。


「ふははっ……フハハハハハァ! 汝は、本当に、神経を逆撫でする男だッ!」


 魔王が私に斬りかかってきた。

 漆黒の二刀には、凄まじい威力が込められている。

 正真正銘、魔王の全力だ。

 仮に直撃すれば、私など跡形もなく消し飛ぶだろう。


 だからその前に剣を振った。

 魔王を遥かに上回る速度でひたすら振るった。

 それだけの話だった。


「――お、あっ」


 間の抜けた声を発したのは魔王だった。

 その手から漆黒に剣がどちらも滑り落ちる。

 闇の魔力が急速に霧散していった。


 私は剣を鞘に戻して告げる。


「残り百七十八回分の斬撃を同時に叩き込みました。もう終わりです」


「な、汝はこれほどの実力を、一体どうやって……」


「教えてほしいですか?」


「最期に、頼む」


 魔王が懇願する。

 全身に無数の細かな亀裂が走っていた。


 私はいつもの微笑を湛えて答える。


「才能と努力です」


「ば、かな……」


 そう呟いた直後、魔王は粉微塵になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] その手から漆黒に剣がどちらも滑り落ちる。 漆黒の二刀or漆黒の剣 では?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ