第15話 闇の秘宝と魔王
その後、闇の秘宝を手にした私は森を出発した。
一切の寄り道をせず魔王のもとに戻って結果を報告する。
「というわけで、無事に闇の秘宝を手に入れてきましたよ」
そう言って漆黒の宝玉を投げ渡す。
竜の姿をした魔王は浮遊させることで静かに受け止めた。
「ご苦労であった。森のエルフ達はどうした?」
「もちろん放置しましたよ。攻撃回数が残っていませんでしたし、そもそも彼らへの対処は契約で決めていませんからね」
「……殲滅を命じておけばよかったか」
「すべては金次第です。ちなみにエルフ達に何か恨みが?」
「あの忌々しき土地は目障りだ。我の支配する世界には必要ない」
魔王は唸りながら語る。
何やらエルフ達とは因縁があるらしい。
別に興味はないものの、話題を切る流れでもないので、とりあえず指摘を挟んでおく。
「そんなに嫌いなら、尚更に自分の手で滅ぼすべきですよ。得体の知れない人間に頼むことではありません」
「この身で可能ならとっくに実行している。我が力はまだ回復していない。闇の秘宝を手にしたことで改善されるが、全盛期にはまだ及ばないのだ。エルフの森に攻め込むのは些か危険すぎる」
魔王は意外と理性的だった。
己の弱さを認めた上で、手段を選ばず目的に向かって邁進している。
悪くない姿勢であった。
いずれも口で言うのは簡単だが、実践するのは難しい。
魔王は軍師としての才もありそうだった。
惜しむらくは、配下が脳筋すぎる点だろうか。
私のせいで壊滅的な被害が出ており、現在も周囲には僅かな部下しかいない。
それも主力級とは言い難い数と質である。
闇の秘宝で魔王本人の力は上昇したが、軍全体の立て直しが厳しそうだった。
まあ、その辺りはこちらが気にすることではない。
私は魔王の前で一礼して話をまとめにかかる。
「これにて契約終了です。なかなか良い体験ができました。またご都合が合えばご連絡ください」
「……剣聖リゼンよ。汝の力量と信頼性はよく分かった。このまま新たな契約を結びたい。それは可能か」
「不可能です」
私は笑顔のまま即答した。
魔王が怪訝そうに表情を曇らせる。
「なぜだ」
「実は予約が入っていましてね。あなたとの契約が終わると同時に始める取り決めなのですよ」
「誰が汝を雇った」
「森を管理するハイエルフです」
私が答えたその瞬間、場の空気が張り詰めた。
魔王から驚きと怒りが滲み出してくる。
「――まさか」
「ええ、そのまさかですよ」
私は笑みを深めながら剣の柄に触れる。
刹那、魔王は秘宝を掴みながら激怒した。
どす黒い殺気を放出しながら、声だけで大地を震わせる。
「やめろ。我は魔王だ。このような裏切りは許さぬぞッ!」
「一太刀につき金貨一枚」
私は歓喜と共に剣を振りかぶった。




