表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/122

第122話 一太刀につき金貨一枚

 閑散とした市場で私は待つ。

 しばらくすると、海岸に強大な魔力反応が現れた。

 竜を彷彿とさせる大きさで、全身が海藻に覆われて全容が窺えない。

 底光りする目だけが隙間から覗いていた。


 私は遠巻きにその異形を眺める。


「あれが海の神ですか」


 周囲の海が荒れ始めている。

 噴き乱れる魔力が物理現象となっているのだろう。

 海の神は砂浜に上陸してこちらに迫ってくる。

 海藻の奥からくぐもった思念が飛んできた。


「――強き者よ。我に名乗ることを許可しよう」


「名乗るほどの者ではありませんよ。ただの守銭奴です」


「我の言葉に背くのか」


「命じられたら反発したくなる年頃なのですよね」


 私は剣の柄を叩きながら微笑する。

 海の神から苛立ちの感情が伝わってきた。


「傲慢な人間が。不遜な態度を後悔させてやろう」


「後悔させてみてください。ずっと心待ちにしているのですよ。私を殺せるほどの存在が現れることを」


「その役目を僕が担おうとしたのだがね」


 背後から声がした。

 市場を闊歩してくるのはローブを着た男だ。

 私は片手を上げて親しげに話しかける。


「どうも、ウィスさん。名所の火山には行けましたか」


「少しの時間だがね。なんでも海の神が降臨するとかで閉鎖になったんだ。まったく困ったものだよ」


 ローブの男――ウィスは苦笑交じりに語る。

 海の神が目ざとく反応した。


「貴様、人間ではないな。何者だ」


「名乗るほどの者では……あるかな。"不明忌憚"と呼んでもらおうか。嫌なら元魔神でもいい」


 ウィスは悪意の垣間見える眼差しで答える。

 彼の身体からは黒い瘴気が滲み出ている。


 二年前に殺したウィスだが、現在はこうして復活を遂げていた。

 魔神の不死性が想像以上に強固だったのだ。

 一年半ほどは微細な瘴気のまま世界を漂っていたそうで、最近になって人型を取り戻したのである。


 復活したウィスは考えを改めたらしく、私とも敵対的ではない。

 今は私と同行して観光を楽しんでいる。

 世界征服については、私が寿命で死んだ後に活動を再開するらしい。

 本人曰く、百年にも満たない期間なので一瞬なのだそうだ。

 私への報復も諦めて、しばらくは隠居生活を満喫するのだという。


 腰に手を当てたウィスは、海の神を指差しながら文句を言う。


「僕は火山が見たいんだ。早く元凶を排除してくれないかな」


「ご不満ならウィスさんが倒しますか」


「いや、遠慮しておくよ。今の僕は著しく弱体化しているからね。本気でやっても数年はかかってしまう」


「なら私が片付けましょう。すぐに終わりますので大丈夫です」


 私は剣を抜きながら向き直る。

 海の神は憤怒を押し殺して力を高めていた。


「我を、心底から、侮っているようだな。貴様は、無限の苦しみを与えてから、滅してやろう」


「ええ、どうぞ。あなたの全力を私に見せてください」


 私は嬉々として剣を掲げる。

 ウィスが退避する気配を感じながら、じっと海の神を凝視する。

 殺意と力が刃に集束して研ぎ澄まされていく。

 私は熱い吐息と共に常套句を口にする。


「一太刀につき金貨一枚」


 未だ届かない剣の極致を見据えて、私は刃を振り下ろした。

これにて完結です。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

新作を始めたのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 処刑されたリッチから入ったけど本当に面白い...キャラを描くのが本当に上手い。 リゼンの余裕綽々とした態度と最強に相応しい実力、でも完璧というわけではないというとてもいいキャラで好き。もち…
[一言] 完結って文字見えて無かった……毎日投稿してるのに投稿ないの珍しいなと思って感想欄見て気づいた…完結おめでとうございます‼︎お疲れ様です!次の作品も読ませてもらおうと思います
[一言] 今回も面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ