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第120話 離島にて

 魔神騒動から二年後。

 私は観光地となったとある離島で暮らしていた。

 朝から市場の商人と交渉を繰り広げている。


「うーん、ちょっと高すぎませんかね」


「この果物は特産品だからな。他じゃ滅多に食えるもんじゃない。むしろお買い得だと思うがね」


「相場で言えば十分の一くらいでは――」


「文句を言うなら買わなくていいんだぜ? 買い手は数多といるんだ。貧乏人の兄ちゃんを相手にしてるほど暇じゃねぇんだ」


「いやはや、手厳しいですねぇ」


 私は苦笑する。

 商人はなかなか強気だった。

 折れる気配はなさそうだ。

 なんとしてもぼったくる気なのだろう。


 どうしたものかと思っていると、商人が手を差し出してきた。

 彼は手のひらを上にして招くような動作を取る。

 私は首を傾げて尋ねた。


「何ですか?」


「手持ちの金を見せてみな。少しだけ安くしちゃる。他の奴らには内緒だぞ」


 言われたとおりに財布を見せる。

 中身はだいぶ軽い。

 近頃は依頼をこなさず、鍛練をこなす日々が続いていた。

 必然的に所持金は少なくなっている。

 日雇いの肉体労働で稼ぐくらいで、必要最低限しか持ち歩いていなかった。


 財布の中身を確かめた商人は悩んだふりをする。

 やがて彼は意を決したような顔で提案した。


「よし、半額でいい。兄ちゃんには負けたぜ。ほらどうだ、特別なんだから買ってけよ」


 提案を受けた私はまたも苦笑した。

 商人の熱演ぶりに我慢できなくなったのだ。


(相場の五倍を恩着せがましく売ろうとするとは……完全に舐められていますね)


 ここからどう話を運ぶか考えようとしたその時、浜辺から悲鳴に近い声が上がった。

 漁師らしき男達が血相を変えて走ってくる。


「う、海の神だああああああぁぁぁぁっ! みんな逃げろおおおおおぉぉぉぉぉッ!」


 それを聞いた瞬間、周囲の人々は恐慌状態になって逃げ出す。

 目の前の商人も立ち去ろうとしたので、私は首根っこを掴んで止めた。


「海の神とは何ですか?」


「知らねぇのか!? 近くの海域に暮らす海獣だ! 竜を丸呑みできるって噂の怪物で、五年に一度くらいの頻度で人間を襲うんだっ! ちくしょう、まさかこの時期なんて……!」


 商人は顔面蒼白で絶望している。

 全身が震えているのは演技ではなさそうだ。


(海の神ですか)


 私はふと考え込む。

 この離島に来て日が浅く、そのような存在がいるとは知らなかった。

 確かに沖の方角に強大な魔力反応がある。

 それは徐々にこちらに接近していた。

 放っておくと近隣を破壊し尽くす勢いであった。


 掴んだままだった商人が急に暴れ出す。

 彼は振りほどこうとしながら怒鳴ってきた。


「おい、放せ! さっさと避難しねぇと殺されちまうっ!」


「金貨一枚です」


「……は?」


 商人が呆然と訊き返してきた。

 私は悠然とした微笑で提案する。


「金貨一枚をください。それで海の神を殺しましょう」

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[良い点] 第120話到達、おめでとうございます! [気になる点] >「金貨一枚です」 >「……は?」 >商人が呆然と訊き返してきた。 さて、剣聖が海獣を一太刀で屠った(※)後、商人はどんな反応をす…
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