第12話 剣聖vs聖剣
私は高鳴る鼓動を自覚する。
迫る戦いの気配に喜びを感じていた。
契約で縛り付けた衝動が勝手に顔を出そうとしている。
私は薄ら笑いでそれを覆い隠すと、滲む期待を押し殺しながら要求した。
「聖剣シアレスさん。あなたが封じる闇の秘宝を譲っていただけませんかね。魔王がそれを求めているのですよ」
『断る。世界の均衡を崩すわけにはいかない』
「では実力行使で奪うことにしましょう」
私はゆっくりと剣を引き抜いた。
その切っ先を聖剣シアレスに向ける。
靄の人型に表情はない。
しかし、明確な不快感が視線となって伝わってきた。
シアレスは吐き捨てるように応じる。
『愚か者が。常人である汝に勝ち目はない』
「試してみないと分かりませんよ」
『我は歴代勇者の剣技を記録している。その力を投影することで、汝に揺るぎなき死を――』
シアレスが語る途中、私は不意に動いた。
大地を蹴って一気に間合いを詰めて、筋肉の躍動から刺突を放つ。
これにはシアレスも驚愕した。
僅かに反応を遅らせながらも、聖剣で刺突を弾いてみせる。
『なッ!?』
反射的であろう聖剣の攻撃が返ってきた。
私は紙一重で躱しながらさらに斬撃を飛ばそうとする。
しかし、その前にシアレスが飛び退いた。
あのまま超至近距離での攻防にもつれ込むのは不都合だったようだ。
互いの距離が開いて膠着状態に陥る。
(大した反応速度ですね。歴代勇者の剣技というのも嘘ではないようです)
初撃の刺突は、完璧な間を狙った不意打ちだった。
命中させられる確信があったので、まさか防がれるとは思わなかった。
こちらには油断も慢心もない。
純粋にシアレスの技量が高かったのである。
相手の技量はおおよそながら分かった。
故に戦闘衝動に襲われる。
我が剣技を存分に試してみたい。
そして栄光ある勝利をもぎ取りたい。
普段は感じもしない欲求が脳裏を満たしつつあった。
それを理性で誤魔化しながら、私は剣を回転させて呟く。
「あと七回です」
『……何?』
「契約上、私に許された攻撃回数ですよ。七回の斬撃であなたを倒して闇の秘宝を頂戴します」
私が宣言すると、シアレスは忌々しそうにぼやく。
『理性的と思いきや、狂った獣であったか』
「よく言われます。人間らしくあろうと努力しているのですがね」
『……戯れ言は、もういい。汝はここで葬り去る』
話を切ったシアレスが再び聖剣を構える。
そして、次の瞬間には猛速で斬りかかってきた。