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第117話 断つ刃

 過程は存在しなかった。

 魔神ウィスが、ただ消滅した。

 私の渾身の斬撃を受けて身体を保てなくなったのだ。


 崩壊を始めた地下空間に静寂が訪れた。

 遥か遠くの地上では多数の魔力反応が乱れている。

 魔神の暴走を感知して恐慌状態に陥ったに違いない。

 この国は技術面に優れており、きっと地下の力にも気付いたはずだ。

 そして、終焉がやってきたのだと考えて絶望する。


 もっともその展開は阻止された。

 剣を鞘に戻した私は、無言で前を見据える。


 不意にウィスが再出現して、私に掴みかかろうとしてきた。

 漆黒と肉が混ざった身体のウィスは、裂けた口で笑いながら大声を上げる。


「ゆ、だんしたなぁッ! け、んせいりぜ、ん……おまおま、えを、ぼくは、ゆるさ、ない!」


 壊れた口調で吼えるウィスが漆黒の触手を生やした。

 一部が彼の肌を突き破って血飛沫を噴かせながら登場する。

 触手が荒れ狂って私を捕えようと躍動した。


 ウィスは人間と魔神の境が曖昧になっていた。

 消耗による弱体化と、極度の怒りによる強化が共存している。

 どちらにも傾けない状態となって生きている。


「しぶといですね。そこまでして勝ちたいのですか」


 私は嘆息を洩らす。

 ただし鞘から剣は抜かない。

 殺気も抱かずに、ただ憐れむように眼前の半端者を眺めた。


 それに気付いたウィスが動きを止めて、またもや憤慨する。


「ぼくは、きる、かちも……ない、のかね」


「それは確かに否めませんが、別にもう一つ理由があります」


 ウィスの前で指を立てて、ゆっくりと左右に振ってみせた。

 少し間を置いて、諭すように答えを告げる。


「私の一太刀は高いのですよ。然るべき役目を果たしたので、少し出し惜しんでおこうかと思いまして」


「ふ、ざ……けるな」


 ウィスが震える。

 それから肉の部位が破裂して瘴気を発散しながら跳びかかってきた。


「フザケルナアアアアアアアアァァァァッ!」


 怪物の咆哮に対し、私は涼しい微笑で佇む。

 その恐るべき攻撃が届く寸前、ウィスの背後に向けて声を投げた。


「――今ですよ」


「分かってる」


 短い応答の後、ウィスの胸から二本の刃が飛び出した。

 聖剣と崩剣。

 刃は滑らかに動いて胸部をくり抜いて、さらには四肢と首を刎ねた。


 硬直した魔神ウィスの身体が蒸発していく。

 その後ろに立っていたのは、双剣を持つ勇者だった。

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