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第116話 決閃

 ウィスがどんどん変貌を遂げる。

 彼は周囲に散布された瘴気と一体化していた。

 個人の輪郭すら失い、黒い煙のような存在となって襲いかかってくる。


 その破壊力は甚大だ。

 掠めるだけですべて消し飛ばすのは変わらない。

 さらに理性がなくなった分、人間らしい挙動が減って先読みがしにくくなっている。

 一方で戦法が単純になりがちなので、結果的には同じような印象だった。


 煙という形で視認できるので攻撃の回避や防御は難しくない。

 極限の集中力をひたすら維持するだけだ。

 徹底すれば、たとえ世界最悪の魔人だろうと私を殺せない。


「おや、瘴気の絶対量が少なくなりましたかね。そろそろ限界なのでしょうか」


 軽やかに動きながら挑発を繰り返す。

 こちらの言葉を理解しているか定かではないが、ウィスはより一層の攻撃を放ってくる。

 最初から一度も攻撃を当てられていないのだ。

 潜在的に募る苛立ちはとっくに最高潮に達していだろう。

 そのまま暴走しているのだから、もはや冷静になれるとは思えない。


(仕掛けるには良い具合ですね。決着の時としましょうか)


 戦況から察した私は、ウィスの瘴気を払いながら微笑を深める。

 剣の大振りで牽制しながら後ろに退くと、見せつけるように刃を掲げた。

 柄を握る指に力を込めて、高まる魔力を流し込んでいく。


 消耗など考慮しない。

 残る魔力を余すことなく注ぐ。

 次の斬撃にすべてを託すのは、私の専売特許であった。


 刃が赤熱しながら悲鳴を上げる。

 何の特殊な力も宿さない安物なのだ。

 とても耐えられない質量の魔力を送り込まれて軋んでいる。

 いつもはそうならないように調節しているが、現在は遠慮なく力を溜めている。


 きっと一撃で砕け散るだろう。

 それでも構わない。

 戦いはもう決まるのだから。


「一太刀につき金貨一枚」


 歓喜に打ち震えながら常套句を口にする。

 熱い吐息が漏れて、殺意と愛が混ざり狂いながら弾けた。

 微笑が崩れて満面の笑みになる。


 次の瞬間、魔神ウィスが拡散しながら仕掛けてきた。

 黒い煙全体が咆哮を共鳴させて迫ってくる。


 触れる床が、壁が、天井が見境なく蝕まれて砕けて消滅した。

 空気中の魔力も取り込まれていた。

 何もかもが消える。

 死の濁流が、埋め尽くさんばかりに、牙を剥く。


 ――私はその数千倍の速度で剣を振り下ろした。

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