第115話 表裏一体
ウィスの猛攻を私は的確に捌いていく。
相変わらずの即死攻撃の嵐だ。
防御や回避、受け流しすらも命がけで、少しでも見誤れば命を落とす。
ただ、それほど困難なことではなかった。
魔神ウィスの攻撃は最初の時点より遅く、手数も少ない。
彼は崩剣に力を吸われ過ぎた上、聖剣から斬られ過ぎたのだ。
無尽蔵の瘴気を宿す魔神は基本的に弱体化することはなく、相手の能力を無力化できるほどの格を有する。
ただし聖剣と崩剣は別だ。
最高峰の力を持つ二種の剣は、局所的に魔神の権能を有している。
それらを勇者が併せることで奇跡的な抵抗を実現した。
結果として不滅の魔神を弱らせて、その能力の絶対値を恒久的に引き下げることに成功している。
私は連続で突きを繰り出す。
反射速度が人間時と変わらないウィスは、当然ながら回避などできるはずもない。
瘴気の身体が数百の穴が開いた。
粒子が集まって塞ごうとするも、部位によって修復速度に違いがある。
最も速い部位でも、最初の時点とは比較にならないほど遅かった。
「どうしました。疲れたのでしたらあなたも休憩しますか?」
私は挑発を重ねながら連撃を放つ。
ウィスの反撃を受け流し、ずさんな防御と回避を破りながら斬っていく。
「そんな、馬鹿な……完成体となった魔神が、僕が、負けるはずが、ないのだァッ!」
憎悪と怒りに支配されたウィスが、不規則に膨張しながら攻撃に転じた。
もはや人間の形など留めていない。
一瞬たりとも容貌が同じ時を見せず、次第に生物の枠組みすらも外れつつあった。
絶叫は甲高い声と重低音まで幅広く変わっていく。
(もはや理性を失いかけていますね……魔神が人格を維持するのは不可能だったということでしょうか)
理性の喪失とはつまり、本来の魔神に逆戻りすることを意味する。
せっかくウィスが苦労して植え付けた人間性が台無しになろうとしていた。
彼の計画はそもそもから破綻していた。
前提として魔神の人格維持などできなかったのではないか。
少し戦っただけでまともに頭が働いていない。
きっとウィスがそれを知れば深く絶望するだろうが、本人は既に暴走気味である。
思考する余地は残っていないだろう。
(まあ、知らずに逝ける方が幸せかもしれませんがね)
ただの獣へと成り下がったウィスを見て、私は若干の憐みを覚えた。




