第113話 共闘陣形
私に庇われた勇者は言いづらそうに礼を言う。
「……助かった」
「いいえ、お気になさらず。協力して魔神を倒しましょう」
「分かった」
気持ちを切り替えた勇者は、私に並ぶように進み出た。
彼の構えるシアレスとナイアも威勢よく発言する。
『リゼン! 吾らも全力で援護するからな!』
『伝説の剣として、名に恥じない活躍を約束しよう』
実に頼もしい布陣だ。
共闘を得意としない私が、このような豪華な面々と手を組むのは珍しい。
それも意外と悪い気分ではなかった。
命を懸けた死闘を前に昂揚しているのかもしれない。
対峙するウィスは嘲笑を交えて意見を述べる。
「矮小な存在だね。群れなければ力を発揮できないなんて。君達がどれだけ連携しようと結果は変わらないよ」
「ふふ……いやはや、それはまた、面白い物言いですねぇ」
私は堪え切れずに笑った。
それを見たウィスは怪訝そうに尋ねてくる。
「何がおかしい」
「口先ばかりで成果を出せない魔神には負けると言いたいのですよ」
「――き、貴様ああぁぁぁぁぁァァッ!」
激昂したウィスが膨大な瘴気を噴き上げた。
彼は憤怒を隠さずに力を練り上げていく。
時折、輪郭が膨張と収縮を繰り返すのは、感情の起伏が影響しているのだろう。
そんなウィスを見た勇者が呆れたようにぼやく。
「相手の神経を逆撫でするのが本当に得意だよな」
「これでも戦術の一つです。冷静さを欠かせることで隙を作るのですよ。まあ、好奇心でやっている部分も大きいですが」
「あんたはそうだと思ったよッ!」
そう叫んだ勇者が疾走する。
彼はウィスへと恐れることなく接近していった。
途中で私に指示を送る。
「俺が攻め続ける! あんたは補助に回ってくれっ!」
「承知しました」
そこから勇者とウィスによる高速戦闘が展開された。
両者の力が交錯して地下空間に波及する。
この分だと地上にも何らかの影響が出ていることだろう。
それほどまでに激しい攻防だった。
「なるほど……少しはできるようだね」
「余裕ぶってられるのも今のうちだ!」
勇者が大上段から斬りかかる。
それをウィスの瘴気が受け止めて弾いた。
体勢を崩した勇者に、ウィスの反撃が迫る。
「まずは一匹」
放たれた瘴気の槍を、紙一重で私が防御する。
私は指を横に振って微笑した。
「詰めが甘いですよ。我々を舐めすぎではありませんかねぇ」
「……まったく、いい加減にしてほしいものだ。君はどこまで僕の邪魔をするのだね」
また膨れ上がるウィスは神経質な声で述べた。




