第111話 勇者の本領
爆発的に威力を増した勇者の斬撃が、魔神の防御を穿った。
さらに余波で漆黒の身体を僅かに削る。
ウィスは怪訝そうに勇者を見やった。
「ほう」
対する勇者は間を置かずに追撃を図る。
ひたすら距離を詰めて双剣による猛攻を浴びせていった。
ウィスは漆黒の壁で遮りながら後退する。
斬撃の破壊力は時間経過と共に増大していく。
崩剣が魔神の力を分解して取り込み、それを聖剣が勇者に付与しているのだ。
その循環に限界はない。
勇者の身が朽ち果てるまで、際限なく効果を発揮する。
「俺はやってやる……やってやるぞォ! 魔神をぶっ殺してやる!」
叫ぶ勇者は自ら鼓舞しながら攻め立てていく。
その姿は死の恐怖を超越していた。
若干、やけになっている部分もあるのだろうが、真の英雄たる姿を魔神に見せつけていた。
私は両者の攻防を眺めながら拍手をする。
「その意気です。あなたの刃は魔神にだって届きますよ」
勇者の動きは見違えるほどに俊敏だ。
勘も良く、視覚からの不意打ちにも対応できている。
すべてが即死攻撃と言える魔神の術を相手に善戦していた。
いつもの勇者ならこれだけの動きはできない。
たとえ魔神の瘴気を吸収して身体能力を強化できたとしても、早々に破綻して殺されている。
今の彼が対抗できているのは、聖剣シアレスと崩剣ナイアから戦闘技術を付与されているからだった。
二種の特殊な剣は歴代の使い手の技能を記録している。
それを勇者に貸し出すことで、勝ち目のない戦いに可能性を生み出した。
三位一体の戦力が、世界最強の魔神を追い詰めていく。
そうして攻防が繰り返されること暫し。
聖剣の鋭い刺突が、魔神の脇腹を抉った。
さらに崩剣が閃いて漆黒の頬を切り裂いていく。
ウィスは瘴気を爆発させながら下がり、おもむろに自らの身体を確かめた。
二箇所の傷はいつまで経っても修復されない。
勇者の攻撃が魔神の力を凌駕しつつある。
ウィスは静かな怒りを滾らせながら瘴気を圧縮させた。
「――小癪な。ただの人間が神に勝てると思わないことだ」
圧縮された瘴気が黒い光線となって発射される。
勇者は咄嗟に躱そうとするが、あれは間に合わない。
だから駆け出した私は間に割り込むと、瘴気の光線を剣で受け流した。
ウィスは激怒して殺意を燃え上がらせる。
「剣聖リゼン……!」
「やらせませんよ。勇者殿は世界の希望なのです」
剣を前に出した私は、微笑と共に言い放った。




