第111話 双剣勇者
私の主張を聞いたウィスは動きを止めて沈黙した。
やがて嘲りを隠さずに言葉を返してくる。
「馬鹿馬鹿しい。二種の剣を持っただけで魔神の僕に勝てるとでも言うのかな。無限大なんて軽々しく使うものではないと思うがね」
「それが大真面目に言っているのですよ。すぐに痛感すると思います」
私は悠々と断言する。
別にウィスと口論したいわけではない。
これから実演すれば通じる話である。
私は勇者の到来を待っていた。
彼は目論み通りに辿り着いてくれた。
そこが何よりも重要だった。
魔神を始末するための状況は、既に整ったのだ。
その時、大事なことを思い出した私は勇者に警告する。
「言い忘れていましたが、勇者殿。双剣状態はとてつもなく負荷が大きいです。悠長に戦っていると、あなたの魂と肉体が消滅しますよ」
「……お、おい。それ本当か?」
「この場で嘘は言いませんよ。死にたくなければ早く決着させてくださいね」
「ちくしょうがああぁぁぁァッ!」
勇者が絶叫しながら駆け出した。
その先には魔神がいる。
私の説明を信じて、短期決戦に持ち込むと決めたらしい。
(別に剣を手放すこともできるでしょうに、なんだかんだで律儀ですね)
彼は当代勇者だ。
血統の面では世界最高峰と評しても過言ではない。
依然は未熟さや傲慢な面があったが、彼なりに克服しつつあるのだろう。
だから自己犠牲に等しい双剣運用をやめず、決死の覚悟を以て魔神に挑んでいる。
『リゼンの容赦のなさに寒気がしそうじゃな』
『我も同感だ。とても仲間に向ける言葉とは思えない』
何やら思念が飛んできたが私には関係ないだろう。
そもそも個人の感想は自由である。
あえて弁明することもない。
接近する勇者に対し、ウィスは余裕の態度を崩していなかった。
彼の放つ力の奔流を前にしても、まだ脅威とは思っていないようだ。
無尽蔵の破壊力という点では魔神も負けていないからだろう。
ウィスはこちらを見ながら高らかに笑う。
「剣聖リゼン。愚かな君は奇策に溺れたのだ。この憐れな勇者の次は君を葬ってやろう!」
漆黒の壁がウィスの前に生成された。
それが蠢いて勇者を包み込もうとする。
力を発揮する前に即死させるつもりなのだろう。
余裕綽々な態度と違って油断はしていない。
急加速した勇者は、漆黒の壁を切り裂いた。
双剣による見事な二連撃だ。
霧散した漆黒が崩剣の糧となって吸収されていく。
その力の一部が聖剣に伝わり、勇者の身体能力を強化する。




