第110話 遅れた助っ人
現れた勇者を見て、私は軽快に言葉を返す。
「待ちくたびれましたよ。早く参戦してください」
「こっちは満身創痍なんだ……酷使するなよ」
「勇者殿なら大丈夫でしょう。気合で乗り切れますよ、ええ」
疲労に満ちた文句を受け流していると、崩剣から元気な思念が流れてきた。
『リゼン! 吾が助けにきたぞっ』
「どうもナイアさん。わざわざご苦労様です。さっそくですが敵がいますのでお願いします」
ナイアの意識が漆黒の魔神に向けられる。
沈黙の後、彼女は震える思念で確認してきた。
『お主……アレと生身で戦っていたのか?』
「はい。なかなか大変でしたよ。久々に肝を冷やしました」
私がナイアに応じていると、話題の主であるウィスが動いた。
彼は物珍しそうに勇者をじろりと一瞥する。
「まさか、彼を待っていたとでも言うのかな」
「そのまさかです。あなたを倒すのは勇者殿の役目ですから」
私は話半分に応じつつ、勇者に尋ねる。
「お仲間の皆さんはどうされましたか」
「魔導国の軍を押し留めている。長くは持たないぞ」
「構いません。ここからすぐに決着しますからね」
私はそう言って魔神ウィスに向き直る。
漆黒の身体となった彼の感情は読みづらい。
しかし、怒る狂っているであろうことはすぐに分かった。
ウィスは必死に堪えた声で述べる。
「剣聖リゼン。君は勇者がこの僕に敵うと考えているのか。楽観視するにもほどがあると思うがね」
「いえいえ、こちらは大真面目です。生憎と冗談を言えるほどの余裕はないのですよ。世界の命運も懸かっているようですし」
私は聖剣を勇者へと投げ渡す。
勇者は驚きながらも空いた片手で掴み取った。
ウィスは意外そうに声を上げる。
「ほう、双剣かな。なんとも贅沢だね。彼の技量には勿体ないと思うよ」
「そうでもないです。勇者殿には秘めた才覚がありますので」
私が微笑んだ直後、勇者の魔力が爆発的に上がった。
当の本人が驚愕して後ずさる。
聖剣と崩剣が神々しい光を迸らせていた。
「うおっ、何だこれ!?」
「使い手に力を与える聖剣と、力を奪い尽くす崩剣。この正反対の性質を宿す剣が揃うと、どうなると思いますか」
私は悠々と歩きながら魔神と勇者に問いかける。
どちらも何も言わないため、仕方なく答えを続けた。
「――無限大の暴力が誕生します」




