第102話 世界の真実
ウィスが両手を打ち合わせる。
よほど勢いよく衝突させたのか、隙間から血が滴っていた。
垂れた血が漆黒に変色して、魔法陣へと吸収されていく。
両手を離したウィスはよく通る声で述べた。
「大それた野望はない。ただ究極の強さを手にしたい。そう思うのはおかしなことかな」
「いえいえ、至極当然の感情ですよ。私も強くなりたくて頑張っていますからね。切磋琢磨していこうじゃないですか」
私が朗らかに言うと、ウィスが再び暗黒物質を飛ばしてくる。
先ほどと同じ攻撃なので難なく切り裂いた。
ウィスは特に動じた様子もなく話を続ける。
「君の冗談は神経を逆撫でする。いや、怒らないがね。君にはそれだけの態度を取る資格がある。僕なんて興味の対象にならないだろう」
「そんなことありません。あなたのことはよく存じておりますとも。闇の魔術師として最高峰の存在です。魔王より遥かに強いあなたが四天王に甘んじた理由は不明ですが」
「僕は魔王の力を奪うために画策していたのさ。偉大なる計画の前段階としてね。もっとも、誰かさんが何もかも吹き飛ばして台無しになったが」
「おや。その誰かさんは空気が読めないみたいですね。見つけたら私が叱っておきましょう」
私はとぼけて眉を曲げる。
ウィスの首筋が何度か痙攣した。
その後、彼は妙に優しい声で尋ねてくる。
「剣聖リゼン。君は魔王や魔神についてどれくらい知っているかな?」
「何かと世界を滅ぼそうとする厄介者、という印象ですね。詳しくは知りません」
「……そうか、そうか。うん、いいよ。悪くない回答だ、ああ。むしろ、そうだ、素晴らしいんじゃないかな、本当に」
ウィスの首筋が再び痙攣する。
脈打ちすぎて形が歪んでしまっていた。
彼は極限の怒りを極限の理性で抑え込んでいるようだ。
表情が穏やかなのが不気味である。
首筋の暴走を押さえて鎮めたウィスは流暢に説明を進める。
「魔神とは、地上に堕ちた神の成れの果てだ。その死骸から瘴気が噴き上がって世界を巡り、魔神の魂に魅入られた者が魔王になる」
「興味深い仮説ですね」
「仮説ではない。純然たる事実だ。学者達が好き勝手に予想しているが、これこそがすべてなのだよ」
ウィスが悠々と断言した。
気になった私は素朴な疑問を投じる。
「その事実をなぜあなたが知っているのですか」
「簡単なことさ。僕こそが魔神の転生体だからさ」
ウィスは何でもないことかのように告白した。