表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

第六話 戦中経過

お待たせしました!

 

 エコー部隊が攻撃を受けたのはしっかり本部も把握していた。空軍の《彗星》が捉えた映像がタブレットで確認できた。


 時代のIT化は凄まじくその波には軍隊も抗えない。というよりは他分野より先駆けて導入された。軍隊というものはそれが有用なら何がなんでも真っ先に導入していく。


 陸海空軍の三軍全てに行き渡っている情報共有などを目的としたタブレット端末や無人機などもその一つだ。


7-2小隊(第7中隊第二小隊)を増援として送れ。それと連隊本管に連絡、衛生斑と医官の派遣を要請してくれ」


 増援の指示を出しながら救護班の手配を忘れてはならない。彼等の命一つ一つ重要な資源、無闇に露と消す訳にはいかない。武器や弾薬なんてのはまた同一の物を幾らでも造り出せるが、人はそうはいかない畑に植えれば勝手に生えてくる訳ではないし、ましては工業製品の様に大量生産できるなんてことは無いのだから。


 人は最も変えが効かなく、最も高価な物で最も消費した時に補充しにくい。人と物は同等ではないが、こと軍隊というのはそれが同列視される。大量の死者報告は、人の心を摩耗しやがては単なる数字の羅列へとなってしまう。それは指揮官として一人の人間として避けなければならない。


(更に増援で中隊の一部…いやダメだな戦力の分散は)


 あそこはあくまでも副戦線、主戦線の部隊を引き抜いては逆にこちらが崩壊してしまう。報告を聞く限りでは、それなりに敵へ損害を出している。これなら1個小隊分の増援で対処できるだろう。


「通信兵すまんがFAC(前線航空管制官)を呼び出してくれ」


 主戦線の第二中隊と対戦車小隊は良くやっていた。巧みな防御戦闘によって相手を拘束している。このまま予定通りに行けば後方の増援部隊の到着と共に殲滅が可能だ。欲を言えば当初の目的通りこの部隊だけで殲滅したかったがそう上手くはいかない。


 “念には念”をそれが彼の性分だった。


「……出ました第14戦闘航空団第201戦闘飛行隊FastFAC菊川真中尉コールサインはサイドワインダー」


 ヘッドフォンを外した通信兵は受話器を彼に手渡した。耳に当てるとシューッコォーッと酸素供給の音と共に若い女性の声が聞こえてきた。


『こちらサイドワインダー。デリバリーが必要なのかしら?』


『こちら夜島少佐だ。サイドワインダー、デリバリーを所望するよこちらが指定したポイントにここら辺を飛んでいる《彗星》からATGM(対戦車ミサイル)を撃ち込むだけで良い 送れ』


 MQ-5《彗星》は皇国空軍に配備されている無人偵察攻撃機だ。強力なターボプロップエンジンを一つ搭載し長い航続距離と武装搭載量、そして優秀なセンサー類が搭載さてれており、前線では引っ張りだこなUAVの一つだ。


『なんだそれだけ…それなら《彗星》に搭載されている火器の誘導権限を一時的に少佐に移乗するわ』


『有難いが良いのか?』


 IT化が進んだ戦場ではもう階級の差はあれど陸海空の垣根は殆どなくなった。共通の情報ネットーワーク網に規格化された情報共有システムは陸軍が空軍のASM(空対地ミサイル)を使用することや空軍が陸軍のSAM(地対空ミサイル)を使用する事も可能になった。


『それぐらいなら私の権限でも大丈夫。少佐の端末に誘導パスコード送っておいたから。今度は熱々のを配達させてね』


 端末を取り出すと確かにパスコードが届いていた。


『確認した。今度酒の一杯でも奢らせてもらう 通信終わり』


『あら私は身持ち硬い方よまぁ楽しみにしておくわ』


 通話が終わり受話器を返す。陸と空ではやはり気風が違うのだなと思う。案外面白い女性だったアレが地上支援でエースと呼ばれる存在だとは思えなかった。


「おい……あのガラガラヘビを口説いてたぞ流石少佐だ俺には無理だぜ」


 ボソボソと通信兵達の密談が聞こえてくるが態々咎める事もなく《彗星》からの映像と白地形図に書き込まれた状況図を見比べる。業務に支障があるなら咎めるが一言二言ぐらいで一々咎めるのも馬鹿らしい。


(さてMCV(機動戦闘車)小隊が対応している部隊に対して使うか防御戦闘中のエコーに援護で使うか、それとも中隊の援護に使うか)


 戦場には常に霧が立ち込めている。ゲームなどと違って敵の位置や規模が瞬時に分かる訳ではなく常に完璧な情報が入ってくる訳ではない。情報というのは軍隊の中で最も重要な物の一つだ。しかし流動する戦場の中で情報が常に更新されるのは難しい。情報の不完全さは指揮官の意思決定を遅れさせる。それをとある国の用兵家は“戦場の霧”と呼んだ。


 情報、情報、情報だ。IT化が進みセンサー、レーダーの精度が上がる事で戦場の霧は薄くはなった。だが完全に消えた訳ではなく時にその大量の情報に人は絡められ溺れてしまう。必要な情報を的確に判別し時には果敢な判断が指揮官には必要となる。


「7-2小隊が現着した模様。これより符号はウイスキーとする」


 車載カメラは擲弾によってバラバラにされ機銃で穴だらけにされる敵の姿を捉えた。エコー部隊は田んぼで腹這いになりながら戦闘していたからか全身泥だらけだ。


「ウイスキーに伝達、負傷者の手当はエコーに任せウイスキーは追撃を行え。必ず最低でも四人で行動するように 以上」


 続いてエコーの損害報告が来た。死亡7重傷者3軽傷者2であり多目的車一台全損、三台もそこら中に、光線弾によって穴だらけにされて通気が良くなり整備場送り。


 二個分隊の被害としては甚大だが、この中隊戦闘群全体を見れば軽微と言えなくはない。だがそれでも7名はこの世から消え、重傷者3名は少なくとも軍隊生活は無理だろう。そのことを忘れてはならない。軽傷者は擦り傷や打撲といった戦闘に支障は無い程度という。


ロメオ(MCV小隊)から伝達です敵部隊を殲滅。エコー、ウイスキーと合流後に残敵掃討に移る模様。損害は軽微」


 その報告に指揮本部の中にホッとした空気が流れた。いくら少数の部隊とはいえ自由に動き回る部隊がいるのはたとえ意図してちぎれさせたとしても気分が良くない。ましてや今本部には護衛部隊がほとんどいない。ここが襲われる心配が減ったのは心情にのしかかる恐怖を軽くする。その中でも彼は普段と変わらない。


『エコーは残敵掃討後、補給ならびに一時休息のため本部に戻れ。下手にエコーだけ戻すのは危険が高いウイスキーはその護衛に、ロメオも一緒に戻ってもらうが補給が済み次第、前線の方に行ってもらう』


『ロメオから本部へ 我々も休息が欲しいのだが 送れ』


『こちら本部 ロメオ安心しろ前線と言ってもATPt(対戦車小隊)より後ろだ最前線からは離れている、敵の砲撃の心配はない。いつでもMCVを動かせる様にしつつ待機してくれ居眠りは困るがな 送れ』


 敵は間接攻撃ができないのは周知の事実だった。敵には野戦砲という種類がない。若しくはまだ造られていない。装甲兵器、兵士の間ではヤドカリと渾名されている多脚戦車の主砲も巨大な光線弾を放ち・その威力はMBTを真正面から真後ろまで大穴を開けた上、後方にいたMBTの正面装甲を融解させるほどの威力だが。直接照準、言ってしまえば真っ直ぐしか飛ばないのだ。


 それも今は対戦車小隊によって物陰から動けない。下手に飛び出したら対地レーダーに見つかり喰われるのは流石に異星人も理解していたようだった。


『ロメオ了解。うたた寝するのはこの戦闘が終わった後の楽しみにしておきますよ 終わり』


 普段通りで軽口すら言える胆力にいま彼の下で動いている下級士官や下士官達は尊敬の眼差しを向けていた。


 しかし彼にも恐怖がない訳ではない。ただ士官教育の課程の中で士官は己の弱さや怒りを表に出しては部下の士気低下に繋がると厳しく教育され表に出さないようにしていただけだ。飢えた野生の獅子の前に、裸で平然と立っている者は勇気があるのではなくただの阿呆なのだから。


 必要なのは己の心に巣食う恐怖を飼い慣らすそれしかない。恐怖に抗うことはできないそれは生物として根底にある本能だ。だが飼い慣らし共に歩む事はできる。


 彼はそれをしていたに過ぎない。ただその振る舞いが部下の兵達に羨望の目を向けられてしまったのも無理の無い話だった。死への恐怖を感じさせず律然と指示を飛ばすその姿は軍に入った者が誰しも思い馳せる指揮官の姿そのものなのだから。


「司令部から通達 第3/73機械科歩兵大隊戦闘団は本日1920に戦線に到着する予定だそうです」


 時計を見ると時刻は丁度1700だった。あと2時間弱足らずで到着するとは流石は即応部隊、手際が良い。も少し時間が掛かると思っていたが良い誤算だ 。


 大隊戦闘団が到着すると聞き指揮所内は更に安堵の雰囲気が流れる。これで防衛線が抜けられる事は万一もなくなった。


「大隊戦闘団が到着までしっかり持たせるぞ。せっかく明日の昼には終わるんだ、たった2時間戦線維持できませんじゃ格好がつかないぞ」


 彼は少し厳しい口調で本部に流れていた緩い雰囲気を締め直す。もうここまで来れば出来レースと言っても過言ではない。しかしヒューマンエラーや気が抜けた時に起こりやすい凡ミス、これが怖い。一つの大きなミス、小さな幾つものミスそれが起こってしまうとこの防衛線も崩れかねない。


「エコー部隊が帰還しました」


 遠くからエンジン音が聞こえてきた。


「分かった俺はエコーの出迎えに行ってくる。諸君気を抜くなよ奴等は戦争を止めてくれないからな」



どうでしたか?面白かったなら幸いです。

面白かったならブックマーク、評価お願いします。

感想、レビューもお待ちしております!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ