第二話 第4科長 夜島覚少佐
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第117歩兵連隊は前線から10km程離れた位置にある小さな町の町役場に連隊本部を構えていた。流石にこの距離にだと前線からの銃声を微かに聞こえ、時折連隊所属の重迫撃砲中隊の砲撃音が緩やかな間隔で聞こえてくる。
連隊長室は丁度この町役場の町長室にある。数回ドアを叩き「夜島少佐入ります」と言って部屋へ入る。ドアとは反対側、本来なら町長が座るだろう席にこの第117連隊の連隊長である小垣江大佐であった。
「連隊長、武器弾薬の受領を終え戻りましたこちらが受領書です。それと当初より少しですが弾薬は多く受領しております」
書類を手渡すとぱらぱらと書類をめくり確認すると脇に置いた。
「4科長ご苦労だった弾薬は段列で管理してくれ。それと聞きたいんだが段列はどうなっている?」
段列とは部隊が常に万全の状態で戦闘するために必要な整備や補給などといった支援業務するために設けられる活動区域、人員である。4科長すなわち夜島少佐はその段列を指揮、監督する立場である。
「今の所別段変わった所はありせん本管中隊の衛生小隊、補給小隊、それと中方後方支援団から派遣された第801直接支援中隊それと約300名の新兵と予備役兵が警備業務についております」
連隊長はフムと何か考える仕草を少しの時間を要したあと話し始める。
「段列から前線に人員を回したい何名出せる?」
「そうですね……警備兵達は200名は抽出できるでしょう段列下士官はできて2〜3名ですよ。それ以上引き抜くとこちらも回りません尉官以上は無理です。士官が何名かやられてるんでしょう?司令部へ補充兵を要請するべきです」
それを言われると立つ瀬がないと顔をしかめる小垣江連隊長。彼自身もそれは重々承知しているだがそれは難しいのだ例えるなら底の抜けたコップで水を飲むが如くだ。
「夜島少佐、君も分かって言っているだろう。勿論要請はするさ、だが後方では新部隊の新編に壊滅した第3軍を再編中だ現状、追加の補充兵を求めても暖簾に腕押しだろう」
来ても殻が外れてないヒヨッコ共にブランクがありすぎて錆び付いた予備役兵達。これで戦争をしようとするのだから我々は度し難いのだろうか。
「……実地で新兵を徹底的に鍛えさせても損失率は高くなります。3科に短期間ですが徹底的に鍛えさせれば損失率少しですが少なくなると思います。後は本部要員の下級士官何名か前線に回すほかありません。その上で補充兵と尉官の配属を要請しましょう。こちらがギリギリで回っていると知ったら本部も人員を割いてくれる筈です」
要は今いる人員でフル回転してなんとかしようという話。出来ても地獄、それでも何もしないよりは断然マシ出来なかったら死ぬだけだ。それにいくらなんでも充足が穴あきチーズの様になっている部隊をそのまま放置してその内壊滅させる。己の首を嬉しがって締める馬鹿は本部にはいないと信じたい。
「良い意見だと思う。しかし他の幕僚の意見も聞く為に会議を開きたいこの後時間はあるか?」
会議は無意味と言うけれど会議なしには始まらない。と言うよりも会議とは事前に決まっている案を修正、加筆に使われる方が多い。結論は始まる前に既に決まっているのだ。
「はい弾薬の搬入指示を出した後になりますが30分ほど時間を頂きたいです」
「それでは2時間後としよう少佐も少し休みたまえ。飲み物と軽食ぐらいはとれるだろう」
ありがとうございますと礼を良い部屋を後にしようとする。休憩とれるなら今直ぐにでも取りたいものだが、指示を出した後に細かな残務処理を片付けなければならない。休めるのはほんの20分ぐらいだろうかそれでも休めるだけまだマシか。
そんな事を思いながら連隊長室を後にしようと敬礼をし、さぁドアに向かおうかと後ろを向いた瞬間だ。扉が勢い良く開かれた。
「緊急入電!第1歩兵旅団からです敵大隊規模が戦線を突破!我が方の担当地区に侵入する模様です!」
息を切らした通信小隊の小隊長である少尉が駆け込んでくるなり叫んだ。
「なんだと!すぐに指揮室に向かう。それと全部隊に通達!休息中の部隊も叩き起こせ!」
直ぐ様警報が鳴らされた。慌ただしく走る音が聞こえ、外からは車両の発進していく音が響く。
「夜島少佐……休息中の第2中隊は中隊長の石刀中尉が負傷して指揮をとる者がおらん。よって君には部隊を預け敵部隊への防御戦闘を命じる。他に必要だと思う部隊と物資は持って行け」
誰かが行かなければならない。現在目の前にいる己が適任なのは自分自身が一番分かっていた。
「了解しました。夜島少佐これより第二中隊を基幹とする部隊を指揮し防御戦闘を行います。2中隊に加えて連隊本部の守備している第7中隊の一個小隊を連れてきます。機動戦闘車小隊、対戦車小隊を付けさせてもらいますよ。それと新兵から使えそうな奴等を段列下士官に率いさせて合流させます。あと情報小隊の《天鳥》を出させて下さい」
分かった持って行けと連隊長は言い彼は今度こそ連隊長室から退室した。その足で彼は連隊本部の武器庫に行き小銃、89式短小銃改を受け取った。
89式小銃とは世界標準歴1989年に正式採用された小銃である。皇国人に合わせた設計であり同盟国と同様の5.56×45mm弾を使用する事で補給面も優れた名小銃であった。
しかし採用から30年以上経過したこともあり耐久性、信頼性や世界の潮流に遅れている事もあり新形小銃である24式小銃が新たに採用されたのだ。
そのまま配備が進めば89式小銃は姿を消していただろう。だがそうはならなかった。この戦争、すなわち異星人共との死闘の為に使える物は使う必要があった。一部であるが精鋭部隊が壊滅した為にそちらに最新装備を回す必要もあった。
そのために大量に余っている89式小銃を改良し使うことになったのだそれが89式小銃改だ。変更点は伸縮ストックの採用にハンドカードのレール対応化など外見の原型は殆どないものになった。その部品の結構な数は元々海外の軍や警察、はては民間などに輸出する品物であった。
そういう訳でこの117歩兵連隊の全ての将兵はこの89式小銃改を使っていた。さのなかで89式短小銃改はストックが折り畳み式のスケルトンストックになっており、銃身を切り詰めハンドカードも短くし反動を抑えるために大型のフラッシュハインダーを装着している代物で主に戦車兵、ヘリコプター搭乗員に支給される。
動作確認をし弾倉に弾を込めマガジンポーチにしまう。使う場面があるかどうか分からない。しかし分かるのは自分がこれを使う時は死ぬ手前の時ぐらいだろう。
本部に詰めていた対戦車小隊と機動戦闘車小隊を指揮下に組み込み、7中隊の第2小隊を拾うと連隊本部から敵部隊へと出発した。
段列地域で休息中であった第2中隊と新兵達は後で合流する手筈になっている。まず先に此方が先行し偵察及び防御適した地形を確保しなければならなかった。
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